システム開発の受発注企業間で起きる問題点と解決策 − 「受注企業」編

前月までのブログで、【システム開発の受発注企業間で起きる問題点−「発注企業」編】を紹介してきました。

★「発注企業」編 その1 : http://msystm.co.jp/blog/20140208.html
★「発注企業」編 その2 : http://msystm.co.jp/blog/20140215.html

「発注企業」編においては、次の項目に関して、事象説明、原因、および対応策を紹介しました。

・納期期日が過ぎたのに納品されない
・途中で追加料金を請求された
・納品されたシステムに期待した機能がない
・納品されたシステムが動かない
・納品されたシステムの処理の仕方が違う
・納品後、障害が起きたのに対応してくれない
・障害対応を依頼したらお金を要求された


さらに、「おまけ」として、次の事象への対応策や重要性を紹介しました。


・「言った/言わない」、「言った/聞いてない」問題への対応
・契約書の重要性


しかし、当然、システム開発を受注した企業も、問題点・疑問点を抱えております。


・納品後に、約束通りに入金してもらえるのか ?
・途中で、機能を変更しろと言われないか ?
・途中で、契約を解除されないか ?
・瑕疵担保期間が過ぎても、障害対応をしろと言われないか ?
・約束通りのシステムを納品したのに、機能不足を理由に、費用を値切られないか ? ・・・・



今回は、弊社を含む、システム開発の受託会社で起こる可能性がある、上記問題点について、弊社の事例を含めて対応策等を紹介したいと思います。

今回も宜しくお願いします。

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■納品後に、約束通りに入金してもらえるのか ?

●現象

現象としては、主題の通り、成果物納品後に、代金を入金してもらえない場合を想定しております。

通常、このようなケースは稀だと思います。

但し、弊社の場合、成果物納品後、次の様な点を指摘され、入金を拒否されたケースがありました。

・提供機能が約束と違う
・現場が忙しくて受入検査ができない
・現場が「使えない」と文句を言って来る

このため、「稀なケース」とはいえ、全く発生しない事象とは言い切れないと思います。

●原因

この現象に関しては、まずは受注企業側、つまりシステム作成側に、何らかの落ち度があるか否かによって、原因が異なると思われます。

受注企業側の成果物に、何らかの問題点がある場合には、入金を拒否されるケースもあると思われます。このため、成果物に問題がある場合には、受注企業側に原因があると思われます。

しかし逆に、受注企業側が、契約書の内容に沿って、正しい成果物を納品したにも関わらず、入金を拒否された場合、その原因は、発注企業側にあると思います。

基本的に、本事象の原因は、納品物(成果物)と、契約内容の関係で、次の様に分類されると思います。


(1)納品物が、契約内容と一致する場合、原因は、発注企業側にある
(2)納品物が、契約内容と一致しない場合、原因は、受注企業側にある


●対策

本ケースは、上述の通り、2つのケースに分類されます。ケース毎に対策を記載します。

(1)納品物が、契約内容と一致する場合

この場合、上述の通り、原因は発注企業にあると思います。弊社の場合も、将に、このケースでした。弊社の事例を元に、本ケースへの対応策を紹介したいと思います。

弊社の場合、まずは見積書、および契約書に、詳細開発項目を添付資料として付加し、その上で「詳細開発項目に記載の無い物を開発した場合、請求時に追加料金を付加する」旨を契約書にも明記しました。

なお、契約前にデモ版を貸与し、デモ版で動作確認を行って頂き、その上で正式契約を行いました。

さらに、開発時の不明点に関しては、「質問管理表」を作成し、そこに双方の質疑応答事項を記録として残し、その上、やり取りしたメールに関しては、全て保存しました。

ところが、成果物を納品し、受領書、検収確認書を発注会社から頂こうとしたら、急に「手のひらを返したように」、次の様なクレームを言い出されました。

・提供機能が約束と違う
・現場が忙しくて受入検査ができない
・現場が「使えない」と文句を言って来る

また、「検収が終わらないから費用も支払えない」と言い出し、そのうち、弊社からメールを出しても、全然返事も来ない状況になってしまいました。

そこで、取り急ぎ、上記内容、およびこれまでの経緯を資料に整理し、メール内容とともに顧問弁護士に相談しました。

その結果、弊社には「債務不履行」は見られないため、裁判を起こせば確実に勝訴するだろう、しかし、裁判費用と発注会社への請求金額が見合わない、と言われてしまいました。

しかし、弊社としては、貴重なリソース(人材)を、該当の開発作業に当らせております。作業対価を頂かない訳にも参りません。

そこで、これまでに整理した今回の経緯と、下記資料全てを、実名を記載した上で、弊社ブログで公開することにしました。
・見積書
・契約書
・機密保持契約書
・メール内容

そして、ブログが完成した時点で、該当ブログのURLを添えたメールを発注会社に送付したところ、発注会社から直ぐに返事が来て、その中には、費用を支払う旨が記載されておりました。

しかし現時点でも、残念ながら費用を回収できておりません。そこで、不本意ではあったのですが、上記ブログを公開しました。


問題企業への対応:費用未払い企業「有限会社シャロー(代表取締役 一條善伸)」への対応


全く世の中には、とんでもない企業が、本当に存在する事が解りました。これも勉強だと思い、今後に活かしたいと思っております。

ところで、機密保持契約や契約書に関しては、記載内容に注意する必要があります。特に、ブログ公開を行う場合には、機密保持契約の記載内容が重要です。記載内容に気を付けないと、機密保持契約違反で、逆に訴えられるかもしれません。


さて、発注企業に原因があり、費用を支払って頂けない場合、次の点が非常に重要になります。

・本当に契約通りにシステムを作成したのか
・契約書/見積書にシステム提供機能を明記したのか

要は、受注企業側に「債務不履行」が無いことを、何らかの証拠を元に、具体的に、かつ客観的に証明する必要があります。

受注企業側だけの視点で「問題がない」と言っても、それは「言った/言わない」問題になってしまいます。

また、契約内容が「曖昧」な状態は、ダメだと思います。契約書に「グレー」な部分が有れば有る程、受注企業は不利になってしまいます。「グレー」な内容は、可能な限り排除すべきだと思います。

また、納品後に費用を支払って頂けない場合の対応としては、次の様な手段が非常に有効です。

1) 一定期間(入金予定日)が経過したら、成果物が動作しない仕組みを取り入れる
2) 一定期間(入金予定日)が経過したら、パスワード入力を求め、パスワードを入力しない場合、動作を停止する → 入金確認が取れたらパスワードを通知する → さらに一度パスワード解除が行われたら、次回以降はパスワードを入力しなくても動作させる

上記1)の方法においては、納品を2回行う必要があります。2)の方法の場合には、納品は1回で済みますが、仕組みが複雑なため、別途開発工数が掛かります。

どちらもメリット/デメリットがあります。

但し、念のために申し上げておきますと、上述の様な仕組みをシステムに組み込むと、発注企業側としては、正直、「不快な思い」をします。

その点を理解した上で、発注企業が「不快な思い」をしないよう、あらかじめ何らかの布石を打っておいた方が良いと思います。


(2)納品物が、契約内容と一致しない場合

納品物が、契約内容と一致しない場合、この場合は、費用の支払いを拒否されても仕方が無いのかもしれません。

いわば、「自業自得」だと思います。

しかし、受注企業側に「悪意が無い」ならば、弊社も受注企業側に属しますから、開発に掛かった費用は、どうにか回収したい気持ちは理解できます。

このために重要になるのは、やはり契約書です。

契約書の条項に、【不合格時の措置】と言う項目を設け、その条項の中に、次の様な内容を記載することをお勧めします。

・瑕疵の範囲が軽微な場合、契約金額を減額して請求することができる
・瑕疵が再履行可能な場合、再履行を許可し、再度受入試験を受けることができる


【不合格時の措置】とは、受入試験で「不合格」となった場合の扱いを取り決める条項です。このため、まずは「受入試験」に関する条項を契約書に記載すべきだと思います。

通常、上述の様な条項に関しては、「基本契約書」に記載すべき条項だと思われます。このため、基本契約を締結する場合は、上述の項目を必ず記載するようにして下さい。

他方、「基本契約」を締結しない場合、中小企業同士の契約の場合、「基本契約」を締結せず、発注書/発注請書、あるいは注文書/注文請書だけで契約を締結するケースの方が多いと思いますが、この場合も、できる限り契約内容に、次の様な項目を記載するようにして下さい。

検収期間 検収(受入試験)の実施期間
検収条件 検収(受入試験)をクリアする条件
・支払条件 検収終了後、費用を支払ってもらう時期


どの位の期間で検収(受入試験)を行い、どのような条件をクリアすれば納品物を受け入れてもらえ、かつ、いつ支払いを行ってもらえるのかが明確になります。

商法第526条においては、その第1項で「商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。」と定めております。

このため、発注企業側は、成果物が納品された場合、直ぐに受入検査を行う義務があります。検収期間、検収条件、そして支払条件を契約書に含めることで、費用回収の時期を明確にすることができます。

最低限、この3項目を契約書に明記し、かつ可能であれば検収条件の中に、瑕疵が軽微の場合と、瑕疵が再履行可能な場合の対応を記載しておけば、費用が回収できない、と言う問題の発生を防止することができます。

しかし、前述のように、費用の全額回収を目指すならば、やはり契約内容に、提供機能の詳細を記載し、かつ、きちんとした成果物を作成して納品することが一番大事だと思います。

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■途中で、機能を変更しろと言われないか ?

●現象

この現象は、開発作業を開始した後で、「あの機能が無い」、「この機能も無い」と言われたり、あるいは「あの時は、こういう機能が欲しいと言ったが、実は、こっちの機能が必要だ。」と言われたりするケースです。

受注企業にとっては、当初提供機能を基準に開発費を見積もる訳ですから、開発の途中で、機能変更や機能追加を言い出されたら、たまった物じゃありません。

しかし、現実問題として、このような事象は、良く発生します。

また、本事象は、発注企業から言い出されるだけでなく、受注企業側から申し出るケースもあります。

それは、提供予定機能を実現するに当り、当初の予定通りには機能を提供できなくなってしまったケースです。

正確には、機能自体は契約通りに提供しますが、機能の実装方法が変更になってしまうケースです。これも、結構面倒なケースですが、今回は、このケースは、ちょっと今回の主旨とは毛色が違うため説明は割愛します。

さらに、毎度お馴染みの「言った/言わない」・「言った/聞いてない」問題により、開発途中で機能変更や機能追加要請が来るケースも存在します。

発注企業としては、機能追加や機能変更を「言った」つもりですが、受注企業は、「そんな事は聞いてない」訳ですから、結果として、製造途中や納品後に、「あの機能がない」とか、「この機能がない」と言う事象が発生してしまいます。

●原因

開発途中で、機能変更や機能追加を言い出される原因は、製造の前工程、つまり要件設計が不十分だったために発生する事象です。

要件設計時点で、発注企業の希望・要望の聞き取りが不十分なため、途中で変更や追加が起きると考えられます。

しかし、原因は、上記以外の場合もあります。

運用設計が不十分でも、機能変更が起こる可能性があります。つまり、実際に、システムやソフトウェアを使う人の意見が取り入れらないために発生することもあります。

特に、この運用設計の失敗のケースにおいては、障害発生時の運用設計が不十分なため、機能不足が露呈することが良くあります。

しかし、一番 質(タチ)が悪いのは、発注者側の意図的、あるいは意図的に思えるような隠ぺいです。

受注企業は、当然、開発途中で機能追加や機能変更を言い出されるのが嫌な訳ですから、要件設計時のヒアリングは、一生懸命に行います。

それにも関わらず、発注企業側から、充分な情報が提供されなければ、設計漏れは必ず発生してしまいます。

世の中には、ソフトウェアが、どのように作成されるのかを知らない人が沢山います。

このような人達は、「言えば簡単に、かつ無償で直してもらえる」と思うようです。このため、平気で機能変更や機能追加を言い出してきます。このような人達が原因で発生する機能追加や機能変更には対処方法がありません。

また、「言った/言わない」、「言った/聞いてない」問題に関しては、発注企業、および受注企業の双方に原因があると考えられます。

発注企業、および受注企業の双方が、作業範囲を明確にしておらず、「グレー部分」が残った状態のままで契約したため、「言った/言わない」、「言った/聞いてない」と言う問題が発生する余地を作ってしまったとも考えられます。

但し、どんなに「グレー部分」を排除し、契約書にも作業範囲を明確に記載しても、平気で「言った/言わない」・「言った/聞いてない」問題を起こす人間もいます。

このような人間に対しては、上述と同様、打つ手はありません。

●対策

本事象への対策としては、次の3点に対する対策を紹介したいと思います。

・要件設計時のヒアリング漏れ
・発注企業からの情報提供ミス
・「言った/言わない」問題


(1)要件設計時のヒアリング漏れ

要件設計時のヒアリング漏れを防止するためには、やはり「経験が物を言う」と思います。

場数を踏んでいる人であれば、提案書や要件設計書を作成中に、過去の経験を踏まえ、発注企業が言う事に、不足部分や不明部分があることに気が付くと思います。

しかし、経験が少ないと、発注企業が言うことだけを鵜呑みにしてしまいます。このため、不足部分には気が付かないケースが多いと思います。

それならば、経験が少ない人が案件を担当した場合、その担当者が経験を積むまでヒアリング漏れを我慢するのか、と言うと、そうでもありません。

次の様な対応を取ることで、ある程度のヒアリング漏れは防止する事ができます。
ヒアリング結果を経験豊富な先輩がチェックする
ヒアリング・チェック・シートを作成して活用する

要は、経験則を活用したり、可視化したりすることで、ヒアリングミスを防止することが可能になります。


(2)発注企業からの情報提供ミス

これも上記と同じ方法で、ある程度は防止することができます。

つまり、発注企業が、情報を提供しなかったり、あるいは誤った情報を提供したりした場合も、経験豊富な担当者であれば、情報不足や情報の間違いに気が付くと思います。

例えば、「X」と言う機能を提供する必要があるとします。過去に似たような機能を提供した「Y」社の場合には、「Z」と言う機能も必要だった。今回、発注企業は何も言わないが、本当に「Z」機能は必要ないのか ?

また、「A」機能を提供する場合、既に「B」と言う機能が使えないことは発注企業も知っており、設計書にも記載したが、過去に「A」機能に類似したシステムを提供した「X」社のケースにおいては、「C」と言う機能も使えなかった。「C」と言う機能が使えない点を、発注企業に伝える必要はないのか ?

このように、過去に類似機能を提供したことがある担当者であれば、その機能に関する不足項目や、各種制限にも気が付くはずです。

このような点をチェックシートに網羅するのは難しいものがありますが、注意事項として喚起することは可能だと思います。


(3)「言った/言わない」問題

「言った/言わない」・「言った/聞いてない」問題に関しては、前回のブログに、その対応策を記載しております。下記ブログのページをご覧下さい。

★「発注企業」編 その2 :http://msystm.co.jp/blog/20140215.html

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■途中で、契約を解除されないか ?

●現象

弊社は、契約を途中で解除された経験はありませんが、次の様な問い合わせが来て対応したことがあります。

『 ある案件の開発を、開発スキルがあると言う事で「A」社に頼んでいたが、実は「A」社には、該当案件を開発するスキルがないことが判明した。そこで、途中まで「A」社が作ったシステムを、エム・システムで引き継いで作ってもらえないか ? 』

また、次の様な問い合わせもありました。

『 ある案件の開発を、「B」社に頼んで作成中だが、「B」社は納期が遅れるし、追加費用を請求して来る。そこで、「B」社との契約を打ち切るつもりだ。該当案件には、あと3つの機能があるが、この3機能だけ作成してくれないか ? 』

さらに、次の様な問い合わせもありました。

『 ある企業「A」社に保守業務を委託中だが、実際に障害が発生しても、何も対応してくれない。「A」社との保守契約を解除してエム・システムに保守をお願いしたいが、対応できるのか ? 』

受注企業側に、次の様な何らかの原因があることが判明した場合に、契約を途中で解除されることがあります。

(1)開発スキルが無い
(2)契約を順守しない(納期、費用、作業範囲、等)

●原因

本件の場合、上述の様に、受注企業側に、次の様な原因がある場合に発生します。

(1) 技術的問題が原因による契約解除 スキル不足、品質が悪い(バグが多い)
(2) 契約上問題が原因による契約解除 納期遅延、追加費用の請求、債務不履行

それと、今回の主旨からは少し脱線してしまいますが、派遣で開発を請け負う場合や、あるいは、ある工程、上流工程だけを発注企業で行う場合、人間的な問題で契約を打ち切られるケースもあります。

私が、過去に派遣会社のマネージャーだった時ですが、次の様なことを理由に契約を打ち切られたケースがありました。下記ケースは、主に、個人の資質が原因となって契約が打ち切られるケースです。


・遅刻が多い
・他の社員と揉め事を起こす
・会議中に居眠りばかりする
・仕事をせずにうろつき回る
・欠勤が多い


これらの点に関しては、主旨が異なるため、本ブログには詳しい対応策は記載しません。

このような人間の場合、いくら技術力があっても、社会人としての一般常識の欠如が明らかです。

加えて、ソフトウェア技術者の場合、変にプライドが高く、技術力があれば何をしても構わないと言う変な考えを持つ人間が多いため、説得して態度が改まれば良いと思いますが、通常、どうしようもありません。

会社へのダメージが大きくなる前に、本人と相談し、別の職種の会社に転職することを進めた方が良いと思います。

●対策

本事象の場合、普通に作業を行ってさえいれば、問題は発生しないと思います。一般常識のある企業であれば、このような事態を招く心配もありません。

しかし、技術的問題が発生してしまった場合は、スキル不足が明らかになった時点で、早急に他のメンバーにアサインを変更するしか対応策はありません。今さらスキルアップを図っても手遅れです。納期が遅れてしまいます。

と言うか、問題は、「何で、そんなスキルが無い人間をアサインしたのか ? 」と言うことです。メンバー自身には責任は無いと思います。アサインを決定したマネージャーや上司に問題があります。

また、新人のスキルアップを目的として、新人とベテランを組み(ペア)にして開発作業を行わせる事がありますが、この場合はベテランの監督責任を問うべきだと思います。

いくら自信満々の人間でも、自分自ら進んで、スキルの無い開発案件を引き受けるとは思えません。

該当人物をアサインした上司、あるいはペアになったベテランから、何故、今回の様な事態が起きたのかをヒアリングし、二度と同じ過ちを起こさない様に手を打つのが対応策だと思います。

次に契約上の問題が発生した場合ですが、このような問題を引き起こす企業自身に問題があると思われます。

唯一、納期遅延は、一般企業でも度々発生する事象だと思いますが、契約の打ち切りという問題に発展する前に、打つべき対応は沢山あります。

発注企業から、納期遅延を理由に、契約解除を言い出されるまで、何も対応を取らない所が問題です。

弊社も、正直な所、過去に納期遅延を起こしたことはありますが、この場合でも、納期を過ぎる前に発注企業側に相談し、事前に覚書を交わして、納期を延長してもらいました。

このような企業の場合、ビジネスのルールを遵守することが対応策だと思います。

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■瑕疵担保期間が過ぎても、障害対応をしろと言われないか ?

●現象

この事象は、よくある事象だと思います。弊社も、この問題で、よく悩みました。

事象としては、次の様な例があります。

『 成果物を納品して1年以上経った企業から、突然、ソフトウェアが動かなくなったから直して欲しい』と言う依頼があった。

『 保守契約を結んでいない企業から、契約上の3か月間の瑕疵担保期限が切れた後も、民法の瑕疵担保期間は1年だから、1年間は無償で障害対応しろ』と言われた。

全くひどい内容ですが、どちらも弊社が経験した事例です。

●原因

本事象の場合、原因は次の2点です。

(1)契約書に瑕疵担保期間の記載がない
(2)発注企業に一般常識が無い

一般常識の無い発注企業の場合、契約書に瑕疵担保期間の記載があっても、瑕疵担保期間が過ぎた後も平気で障害対応や調査を依頼してきます。

このため、契約書に瑕疵担保期間の記載がない場合は、それを良い事に、いつまでも障害対応を要求してきます。

つまり、一般常識の無い企業に関しては、瑕疵担保期間を明記しても明記しなくても、いつまでも調査依頼が来ると言う事になってしまいます。

発注企業の側に立てば、出来る限り費用を抑えたい気持ちも解りますが、それも度を越せば、非常識になると思います。

●対策

対策としては、まずは民法と商法を知っておくことです。理解となると、法律用語やら何やら面倒ですが、該当条項の内容だけでも知っておく事で、まずは気分が違います。

何も知らない状況で、発注企業側から「商法だ!」、「民法だ!」と言われたら、それだけで不安になってしまうと思います。

しかし、内容を知るだけで、心が落ち着きますから、余裕を持って反論できます。

ちなみに、以前にも記載しましたが、民法、商法の内、瑕疵担保期間に関係する条項は、それぞれ次の通りです。

民法第637条(請負人の担保責任の存続期間)
1. 前三条の規定による瑕疵の修補又は損害賠償の請求及び契約の解除は、仕事の目的物を引き渡した時から一年以内にしなければならない。
2. 仕事の目的物の引渡しを要しない場合には、前項の期間は、仕事が終了した時から起算する。

●商法第526条(買主による目的物の検査及び通知)
1. 商人間の売買において、買主はその売買の目的物を受領したときは、遅滞なくその物を検査しなければならない。
2. 前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をすることができない。売買の目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合において、買主が六箇月以内にその瑕疵を発見したときも同様とする。
3. 前項の規定は、売主がその瑕疵又は数量の不足につき悪意であった場合には、適用しない。

上記内容においては、民法における瑕疵担保期間は「1年」、商法における瑕疵担保期間は「6ヶ月」としております。

「1年と6か月じゃ、期間が違うじゃないか !! どっちが正しいの ?」と言う事になると思いますが、結論から言いますと、どちらも法律ですから、正しい内容となります。

それならば、「民法の1年と、商法の6ヶ月で、どちらを採用すれば良いの ? 」と言う事になります。

この場合、法律に関する「私法」、ならびに「一般法」と「特別法」の違いを理解する必要があります。

商取引、いわゆるビジネス行為は、法律体系上「私法」の範疇(はんちゅう)に入ります。そして、「私法」の中においては、「民法」が、最も基本的な内容を定めた「一般法」となります。

また、「特別法」とは、「一般法」の中から特殊事項を抽出し、抽出した項目だけを特別に扱う事を主旨として作られた法律になります。ビジネス行為においては、「商法」が「特別法」になります。

このため、「特別法」は、「一般法」よりも優先する法律となります。「一般法」は、「特別法」に定めがない項目に関して運用されます。

上述の現象の項に記載した『民法の瑕疵担保期間は1年だから、1年間は無償で障害対応しろ、と言われた。 』と言う件がありますが、これは、これで、正しい事です。

しかし、瑕疵担保期間に関しては、法律上の「強行規定(変更できない規定)」には当りません。当事者間の合意により変更することが可能です。

このため、契約書上で「瑕疵担保期間は3ヶ月」と言う取り決めを双方で行い、かつ双方で合意が成立したならば、この「3ヶ月」と言う瑕疵担保期間が最優先事項となります。

どうですか ? これらの事を知っておけば、相手が、グダグタと文句を言ってきても、落ち着いて対応できると思います。

故に、ソフトウェア開発業務を請け負う場合には、必ず双方で契約書を締結し、契約書の中に「瑕疵担保期間」を記載するようにして下さい。

また、逆に気を付けなければならないのは、『 契約書には、先方からの要請で、瑕疵担保期間は2年 と記載したが、瑕疵担保期間は民法で1年、商法で6ヶ月だから、後で法律を盾にして対応を断れば良いや 』と言う甘い考えは通用しない点です。

契約書上、「瑕疵担保期間は2年」と記載したら、この場合には、契約書が最優先事項となります。このため、2年間は無償で対応しなければならなくなってしまいます。注意して下さい。


それと、最後に、余計なお世話かもしれませんが、注意点を1点だけ記載しておきます。

契約書上の瑕疵担保期間が経過した後、障害の調査依頼が来たとします。この場合、契約書の記載内容を盾に、調査を断る事は、もちろん可能です。

しかし、ビジネスは、法律だけが有効とは限りません。

もしも、調査依頼をしてきた企業と、今後ともお付き合いをしたいと思うならば、法律を盾に、無下に要求を断らない方が良いかもしれません。

確かに、契約書上は、相手との関係は切れてしまった訳ですし、今さら昔のソースコードを引っ張り出して、記憶を辿りながらロジックを見直すのは面倒です。

また、開発担当者を、現在のプロジェクトから一時的にでも外すのは、納期が遅れる可能性もありますから心配です。

しかし、そこはビジネスです。

先方との関係を維持するためにも障害対応は有効な手段ですし、次回、別案件を頂いた場合には、今回の障害対応が、先方への一つの「貸し」にもなります。

後は、経営判断として、どう対応するのかの判断になると思います。

相手と付き合う必要がなければ、当然、要求を断っても良いと思いますし、お付き合いを続けたいならば、何とかやり繰りして、障害対応をするのも一つの方法です。

上記の点を、経営の判断材料として、頭の片隅にでも止め置いて下さい。 

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■約束通りのシステムを納品したのに、機能不足を理由に、費用を値切られないか ?

●現象

この現象に関しては、本ブログの最初に紹介した「納品後に、約束通りに入金してもらえるのか ?」と似たような事象です。

弊社の場合も、この事象の事例で挙げた発注企業から、いわれのない、次の様な理由をもとに、費用の値下げを要求されました。

・提供機能が当初予定した機能と違う
・他社より技術者単価が高い
・使いにくいから値下げしろ

まったく、非常識この上ない企業でした。できれば、このような企業とは、一生出会いたくありませんが、出会ってしまった以上、これも勉強だと思い、最後まで対応しました。

しかし、ビジネスの世界においては、実際に作業を始めるまで、相手が、どのような企業なのかを知るすべもありません。皆さんも、弊社のように、非常識な企業と遭遇しないように注意して下さい。

とは言え、注意の仕方が問題ですが・・・

●原因

本事象の原因については、主題の通り、受注企業側は、「約束通りのシステムを導入したのに」を前提に説明したいと思います。

受注企業側が、契約書通りのシステムを導入しない場合は、当然、費用の値下げ要求は来るでしょうし、最悪(契約書の記載にもよりますが)、契約解除の可能性もあります。

受注企業側が、「約束通りのシステムを導入した」にも関わらず、発注企業から値下げ要求が来た場合、これは当然、発注企業側に原因があると考えられます。

●対策

本事象の場合、上述の通り、発注企業側に原因があります。このため、受注企業側で取れる対策には限界があります。

発注企業は、このように成果物納品後に値下げ要求をしてくる訳ですから、恐らくですが、当初から費用を値切る「腹積もり」だったと思われます。

このような発注企業の場合、どのような事を理由に挙げて、値下げ要求を行ってくるのか予想も付きません。

弊社の場合には、上述の様に、次の3点を理由に挙げてきました。


・提供機能が当初予定した機能と違う
・他社より技術者単価が高い
・使いにくいから値下げしろ


しかし、今回問題なのは、IT業界、しかもソフトウェアの受託開発業務ですから、上記の他にも、次の様な事を理由に挙げられる可能性があります。


・ソフトウェアの品質が悪い(バグが多い)
・サポートしてくれない
・納期が遅れた
・処理速度が遅い
・マニュアルが解りにくい


理由を考えれば、キリがありません。また、このような理不尽な要求を突き付けてくる企業ですから、ソフトウェア以外、次の様な点に関しても、文句を付けてくる可能性も否定できません。


・担当者の態度が悪い
・連絡が付きにくい
・対応スピードが遅い


ここまで来ると、もうどうしようもありません。

このような「非常識な」発注企業を相手にする場合、どのような対策が考えられるでしょうか ?

弊社の場合、既に、1社だけですが、「非常識な発注企業」と渡り合った経験があります。今後は、次の様な対策を取ろうと考えております。

また、本ブログを作成するために、弊社と似たような経験をした他社様の対応も、参考にさせて頂きました。

そこで、本章においては、概要だけを記載し、最後に「まとめ」として、「非常識な発注企業」への対応を記載したいと思います。

(1)発注企業を問合せ段階で可能な限り調査する
・メールアドレスが、個人メールか否かを確認する
・ホームページの有無を確認し、さらに資本金、取引先企業、所在地を確認する


(2)契約書に対応内容や制限事項等を可能な限り記載す
・まずは、契約書を作成して、双方で契約を締結する
・契約書には提供機能の詳細を記載する
・制限事項は最初から提示する
・納品日、検収期間、支払条件/検収方法、受入拒否条件、支払方法、支払遅延時の賠償金/利率、瑕疵担保期間を記載する
・機密保持契約は、機密にする内容を限定する


(3)発注企業とのやり取りは全て記録として保存する
・先方とのメールは全て保存する
・Q&A等、先方との質疑応答内容は全て記録する


(4)納品物に稼働制限を付けて納品する
・発注企業が怪しい企業だった場合には、入金予定日経過後に、システムが動作しない仕組みを組み込んで納品する


基本的に、「怪しい企業」とは、お付き合いしない方が賢明です。

しかし、このご時世、「怪しい」と言うだけで、取引を断れる程、ビジネス環境は甘くはありません。

そこで、次章を参考に、リスクに備えて下さい。

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■非常識な発注企業への対応

ここまで、非常識な発注企業と出会ってしまったために発生する、次の様な事象への対応策を掲載してきました。

納品後に約束通りに入金してもらえるのか ? 費用不払い問題
途中で機能を変更しろと言われないか ? 工数増加問題
途中で契約を解除されないか ? 契約解除問題
瑕疵担保期間が過ぎても障害対応をしろと言われないか ? 瑕疵担保問題
約束通りのシステムを納品したのに機能不足を理由に費用を値切られないか ? 不当値下げ問題

そこで、非常識な発注企業への対応方法を、整理して紹介したいと思います。

1.予防策

最初に、費用不払い問題に対する予防策を紹介したいと思います。

(1)発注企業を問合せ段階で可能な限り調査する

これは、前述のように「与信調査」とは違います。まずは、次の様な段階を踏んで調査を行い、今後の対応を決定したいと考えております。

1)メールアドレスの確認
最初に、問合せ企業のメールアドレスを確認します。問合せ先企業のメールアドレスが、該当企業のドメインであれば、メールアドレスに関しては問題無いと判断できると思います。

しかし、問合せ先企業のメールアドレスが、次の様な個人メールの場合、まずは相手側を疑った方が良いと思います。
・@yahoo.co.jp
・@gmail.com
・@ocn.ne.jp
・その他無料の個人メール

2)ホームページの有無、および記載内容を確認
次に、問合せ企業に、ホームページがあるか否かを確認します。ホームページがあれば、ホームページ記載内容から、次の点を確認します。
・資本金 : 資本金1千万円以下の企業は下請法の対象外になります
・取引先企業 : 大手企業との取引経験があれば、それなりの仕事はしてると思われます
・所在地 : 自宅が会社の場合、怪しい感じがします

ホームページが存在しない企業の場合、問合せ企業の情報が全く解りません。この場合は、相手には失礼化もしれませんが、まずは疑った方が良いと思います。

3)インターネット上での相手先企業の検索、および内容確認

インターネットで、問合せ先企業名で検索を行い、どのような情報が表示されるのかを確認します。但し、2chや退職した社員が愚痴を掲載したサイトの情報は信用しない方が良いと思います。

例えば、次の様なキーワードで検索すると、危ない企業や個人の名前が表示されます。
・下請法勧告 違反 下請代金
・不払い -電気 -NHK -保険金 -残業 -賃金 -家賃 -養育費 -辞書 -治療費 -保険 -東電

ちなみに、下請法に違反した企業に関しては、下記、公正取引委員会のページに掲載中です。
★下請法勧告一覧:http://www.jftc.go.jp/shitauke/shitaukekankoku/index.html

4)判定
最終的に、問合せ先企業が、次の様な企業の場合は、まずは疑った方が良いと思います。

私も、これまで、「性善説」で仕事をしてきましたが、これからは、誠に残念ですが、「性悪説」で仕事を請け負うことになってしまいそうです。

・メールアドレスが個人メール
・ホームページが存在しない
・インターネット上に悪い噂が掲載
・過去に費用不払いの実績がある

(2)契約書に対応内容や制限事項等を可能な限り記載する

1)機密保持契約について
・全てを機密扱いにしてしまうと、後で、相手先情報をブログ等で公開する時に、機密保持契約違反で、逆に提訴されてしまう可能性があります
・機密文章に関しては、相手からの情報には「機密」である旨を記載させる、自社からの情報でも、機密扱いにしたい場合には、「機密」である旨を記載する


2)契約書
・まずは、契約書を作成して、双方で契約を締結する
・契約書には、提供機能の詳細を記載するか、あるいは別紙として添付する
・制限事項は、可能であれば最初から提示し、契約書に記載するか、あるいは別紙として添付する
・納品日、検収期間、支払条件/検収方法、受入拒否条件、支払方法、支払遅延時の賠償金/利率、瑕疵担保期間を記載する


(3)発注企業とのやり取りは全て記録として保存する

発注企業とやり取りした、次のような記録は、全て記録する
・メールでのやり取り内容
・製造途中で、システムの仕様等を決定するために行った質疑応答内容

(4)納品物に稼働制限を付けて納品する

・可能であれば、納品時には、次の様な仕組みを組み込んだソフトウェアを納品する
・入金予定日を過ぎたら、パスワード入力を要求する画面を表示し、パスワードを入力しない場合は、システムをシャットダウンさせる。一度、パスワードを入力したら、次回からは、パスワード要求は行わない。


2.事後対策


次に、不幸な事に、実際に費用不払い問題が発生してしまった場合の対応方法を紹介したいと思います。

記載した対策の順番は、私が勧める対応方法の順番です。状況に応じて、適宜対応して下さい。


(1)発注企業を説得する

無駄かもしれませんが、まずは、電話やメール、あるいは督促状等で、相手先企業の説得を試みることが重要です。

この対応で、相手先の誠意を確認することができます。相手先の誠意を確認することで、万が一、裁判になった場合、この説得行為が、こちらに優位に働くと思えます。

(2)経緯をブログ等で公開する

恐らく、このような状況になってしまった場合、単なる説得だけで、相手は屈しないと思います。

そこで、今回の費用不払い問題の経緯を、次の様な証拠物件を元に、ブログ等、インターネット上に公開する事をお勧めします。

・契約関係書類 :見積書、契約書、機密保持契約書
・製造過程資料 :質疑応答表
・先方とのやり取り資料 :メール

上記資料を公開する場合、機密保持契約に抵触しない必要があります。前述の予防策で紹介した通り、機密保持契約の内容には注意して下さい。

そして、ブログが完成した後、該当URLと、入金してもらえない場合には、ブログを公開する旨を先方に伝え、その反応を待つことになります。

また更なる注意点としては、個人的感情を無視して、全て客観的に記載することをお勧めします。

請求代金を支払ってもらえず、かつブログ作成などと言う、面倒な作業まで行った訳ですから、かなり「ご立腹」とは思いますが、ここは冷静に、起こった事実のみを記載することが肝心です。

感情の赴くままに、相手の悪口を書いてしまうと、今度は逆に名誉棄損で訴訟を起こされる可能性があります。注意して下さい。

さらに、ブログに関しては、一度インターネットで拡散してしまうと、もう手の打ちようがありません。

最初は、非公開で、かつGoogle等の検索エンジンには登録(インデックス)されないような仕組みを施した上で相手に通知するようにした方が良いと思います。

弊社の場合、ここまでの対応で、相手先から入金がありました。

これ以降の対応方法は、私が、後学のために、インターネットで調査した内容になります。ひょっとしらた誤解や間違いがあるかもしれません。

このため、これ以降の対応を行う場合には、本ブログの内容を参考に、再度、ご自身で調査された方が良いと思います。


(3)発注先企業を直接訪問する

通信媒体を使った説得が駄目だった場合、他会社の事例によると、もしも相手先が、直接訪問できる距離であれば、直接訪問して費用を請求すると、かなりの確率で、費用回収が可能になるそうです。

また、当然、その場で、現金で費用を支払ってもらえる訳はありません。賠償金を含んだ支払条件を記載した請求書等を持参し、そこに捺印させることになると思います。


(4)社長の自宅を直接訪問する

会社を訪問しても「居留守」を使われたら元も子もありません。その場合、会社の登記簿謄本「履歴事項全部証明書」を入手すれば、社長の自宅住所を知る事ができます。

後は、上述の対応と同様、社長に直談判を行うことになります。


(5)内容証明郵便の送付

これまでの対応を行っても、相手が何もしてくれない場合、次の手段としては「内容証明郵便」を送付することになると思います。

しかし、内容証明郵便は、実際には単なる手紙ですから、法的な効力は一切ありません。相手に対して、「裁判も検討中」と言う心理的圧力を掛けるに過ぎません。

とは言え、内容証明郵便を出して、相手が郵便を受け取り、その後、実際に裁判まで行われることになった場合、内容証明郵便は、裁判の証拠となります。このため、記載方法や記載内容には充分に注意する必要があります。

特に、後日、利息なども請求金額に含めたい場合で、かつ契約書が無い場合は、内容証明郵便が有効です。

但し、内容証明郵便を送っても、相手が不在の場合、不在通知表を残すだけで、相手が再配達依頼をしない場合、そのまま郵便物が戻ってきてしまいます。

この場合、相手は内容証明郵便を受け取らないため、法律上の「到達」にはなりません。つまり、相手が留守で返送されてきた場合は、法的効果は発生しないことになります。これが内容証明郵便の、制度上の欠陥です。

但し、相手が受取を拒否した場合は、相手が中身を見なくても、法律上は、相手に「到達」したことになりますから、裁判の時には証拠として採用されます。


(6)公正証書の作成

次に有効な手段としては、公正証書の作成となりますが、この対応は、まず無理だと思います。

何故なら、公正証書は、当事者双方が公証役場に出向き、公証人に作成してもらう必要があるからです。

もしも、これまでの対応で、相手が支払いに応じる旨を報告してきた場合は、ひょっとしたら公正証書の作成に同意するかもしれませんが・・・おそらく無理でしょう。


ここまで来ても費用を回収できない場合には、何らかの行政機関、あるいは司法機関の支援が必要になります。そこで、次3つの方法を紹介したいと思います。

但し、今回はブログのページの関係もありますから、概要だけに留めたいと思います。また、記載順番は、対応方法の順番と考えて頂いて構わないと思います。


(7)支払督促を起こす

簡易裁判所で申し込みを行う事で、裁判所が、督促状(請求書)を発行してくれる仕組みです。証拠も、事情聴取も必要ありません。次の様な手順になります。

・相手の住所を所轄する簡易裁判所の書記官に「支払督促申立書」を提出
・書記官が、記載内容をチェックし、問題がなければ、相手に支払督促を郵送
・相手が、送達日の翌日から2週間以内に異議申し立てを行った場合、通常裁判に移行する
・相手から、送達日の翌日から2週間以内に異議申立て、および支払いが無い場合、「強制執行」の手続きを行う
・異議申立て期間経過後、30日以内に「仮執行宣言」を行う。(期間が過ぎると最初からやり直し)
・「仮執行宣言」を書記官が審査し、問題が無ければ「仮執行宣言付支払督促」を双方に郵送
・この時点で「強制執行」が可能となる
・相手は、「仮執行宣言付支払督促」受け取り後、2週間以内に異議申し立てを行った場合、通常裁判に移行するが、強制執行は停止できない(強制執行を止める場合、「強制執行の停止の申立て」を行う)

1)メリット
・書類審査のみ
・手数料が、通常裁判の1/2
・扱い金額に上限無し

2)デメリット
・相手の住所を掴んでいる必要がある
・相手が異議申立てを行った場合、自動的に、相手の住所を所轄する裁判所での通常裁判になる
・相手の「意義申し立て」に理由は不要


支払督促の場合、恐らく、相手は、何も考えずに「意義」を申し立てると思います。そうなると、相手側の裁判所で通常裁判が行われることになります。相手が遠隔地の場合、対応が面倒になります。

通常裁判となっても、支払督促に掛かった費用(印紙/切手代)は、返却されません。


(8)少額訴訟を起こす

回収対象が、60万円以下の金銭の場合のみ、年10回まで同一裁判所で利用可能な裁判です。また、請求金額に利息がある場合は、60万円を超えても大丈夫です。さらに、請求金額が60万円を超える場合、分割して利用する事も可能です。

簡易裁判所に「訴状」を提出(金銭請求の場合、原告側の簡易裁判所にも提出可能)
・裁判所が訴状を受理すると、審理日程を決定後、双方に「口頭弁論の期日の呼び出し状」が発行される
・被告に「答弁書」の提出を命じる
・「答弁書」が裁判所に届くと、原告に写しが送付される
・原告、および被告は、口頭弁論日までの間、証人や証拠を揃える(※内容証明郵便が証拠として利用可)
・口頭弁論で双方の意見陳述を行った後、その日の内に判決が下される(相手が出廷しない場合は不戦勝)
強制執行の場合、管轄の執行裁判所は債務者の所在地の地方裁判所ですが、少額訴訟の場合は、金銭債権の強制執行については少額訴訟債権執行を選択することも可能。この場合、少額訴訟の判決を出した簡易裁判所を債権執行の管轄となる


1)メリット
・安い(印紙代、郵便代を含め、1回当り1万円前後との事。勝訴すれば、被告側の負担となる)
・早い(1回の口頭弁論で結審)
・手軽(手軽と言うのは、通常裁判と比較して手軽と言うだけで、実際の書類作成は面倒)
・口頭弁論は対話式

2)デメリット
・請求金額は、利子・延滞損害金を含まない金額で60万円以下
・控訴不可能
・相手が、少額訴訟を拒否できる(拒否した場合は、通常裁判)


(9)公正取引委員会に報告する(下請法適用)

発注企業が下請法の対象企業の場合、公正取引委員会に報告することで、委員会から是正勧告等の行政指導を行ってもらうことが可能です。

下請法違反の事実を申告する件に関しては、下記「e-Gov(イーガブ)」に情報が掲載中です。
★e-Gov:http://www.e-gov.go.jp/

また、直接インターネットから違反事実を報告する場合、下記URLから申告することが」できます。
公正取引委員会の電子窓口:http://www.jftc.go.jp/soudan/denshimadoguchi/cyuishitauke.html


最後に、強制執行に関して補足説明を記載しておきます。強制執行とは、相手の財産を差し押さえることになりますが、何を差し押さえるのかを、自分で決める必要があります。

通常は、相手の銀行口座を差し押さえることになりますが、この場合、相手の銀行名、支店名、口座名を、事前に調べておく必要があります。(口座番号は不要です。)

さらに、差し押さえ手続きにおいては、次の問題があります。

・差し押さえは、自分で行う必要がある(裁判所は何も行ってくれません)
・相手の銀行、および相手側にも通知が届く
・相手に通知が届くと、銀行が処理を行う前に銀行からお金を引き出されてしまう可能性がある
・同様、売掛金を差し押さえようとすると、別の銀行に入金先を変えられてしまう可能性がある
・差し押さえは、書類が銀行に届いた時点で、その時に該当口座にある金額を振替えるだけ
・差し押さえは、口座凍結とは違う。その後、相手は自由にお金の出し入れができる
・相手に該当金融機関からの借入金があると、残金が借入金と相殺されてしまう ・・・・


とにかく面倒で、専門知識と経験が必要みたいです。このため、債権の回収は、費用は掛かってしまいますが、弁護士に依頼した方が良いと思われます。

また、一般企業の場合、強制執行対象となった企業は、契約解除の対象になります。そうなると、相手が倒産してしまう可能性もあります。相手が倒産してしまうと、債権回収も、より難しくなってしまうと思われます。

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如何ですか ? 何か、このブログを読んでいると、私自身、ビジネスをするのが恐ろしくなってしまいます。

しかし、本ブログに記載したような非常識な企業は、恐らくは、ほんの一握りの企業だと思います。(と言うか思いたいです。)

99%の企業は、きっと真っ当な企業だと思います。そうでなければ、ビジネスなど成立しません。

しかし !! 運が悪ければ、このような非常識な企業と遭遇してしまう可能性はあると思います。

このため、常日頃から、本ブログに掲載したような対策を取れば、それが御社の業務フローとして定着します。非常識企業に出会ってしまっても、特に慌てることなく対応が取れると思います。

それならば、リスクを減らしたい場合は、やはり契約前に、相手企業の事をきちんと調査し、怪しい企業との取引は控えるか、または前金で支払ってもらうような対応を取るべきだと思います。

次回も宜しくお願い致します。

以上

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