岩手県内のひな祭り ― 雛あられ以外の楽しみ方

今回は、私には、余り似つかわしくないと思いますが、岩手県内各地で開催される「ひな祭り」をご紹介したいと思います。

私には、姉がいましたが、子供の頃、一度だけ「ひな人形」、いわゆる「ひな壇」が飾ってあったのを見た記憶があります。しかし、その後、「ひな人形」を見た記憶がありません。

今になって思い出してみると、記憶違いかもしれませんが、何れにしろ、余り「ひな祭り」の記憶は余りありません。

但し、「雛あられ」を食べた記憶だけはありますから、「ひな祭り」は毎年行ったが、私が「ひな人形」を壊すのを恐れ、私には見せずに、「雛あられ」だけ食べた可能性が高いと思います。(笑)


さて、岩手県内の「ひな祭り」と言っても、実家の近所の「ひな祭り」を紹介する企画じゃありません。岩手県内の各地に伝わり、時代を超えて女性たちに愛されてきた「ひな人形」をご紹介する企画です。

古くは、江戸時代から現在に伝わる由緒ある「ひな人形」や、各地の伝統の技によって作られた「ひな人形」について、岩手県の南から順番に、次の内容を紹介したいと思います。

項番 ひな祭り名 場所 期間
1 南昌荘のひなまつり 盛岡市 2014/2月中旬〜3月上旬
2 一ノ倉邸のひな遊ぶ 盛岡市 2014/2月中旬〜3月上旬
3 盛岡市先人記念館ひな人形展示 盛岡市 2014/2月中旬〜3月上旬
4 盛岡町家・旧暦のひなまつり 盛岡市 毎年4月第2土曜・日曜
5 花巻人形ひなまつり展 花巻市 2014/2月中旬〜3月上旬
6 花巻の春 桃の節句雛人形展(※今回省略) 花巻市 2014/2月中旬〜4月上旬
7 八日市ひなまつり 花巻市 2014/2/14〜3/3
8 大迫・宿場の雛まつり 花巻市 2014/2/19〜3/3
9 遠野町家のひなまつり 遠野市 2014/2/22〜3/3
10 奥州水沢のくくり雛まつり 奥州市 2014/2月中旬〜3月上旬
11 せんまやひなまつり 一関市 2014/2/11〜3/3


今回も宜しくお願いします。

                                                                                                                                                                                • -

■南昌荘のひなまつり


「南昌荘(なんしょうそう)」は、天保6年(1835年)に盛岡市肴町に生まれた「瀬川安五郎」が、盛岡市清水町に、この「南昌荘」を含む広大な邸宅を作成したのが始まりとなります。

「瀬川安五郎」は、「みちのくの鉱山王」として財を成しましたが、日露戦争後に事業に行き詰まり、邸宅を、当時の盛岡市長に売却しました。

その後「南昌荘」は、様々な持ち主を経て、現在は「いわて生活協同組合」が、大手マンション業者による庭園破壊を防止するために購入し、有料で公開しており、盛岡市保護庭園ともなっております。

そして「南昌荘」で開催されるのが、「南昌荘のひなまつり」となります。

この「ひな祭り」においては、各部屋に「ひな人形」が飾られており、江戸時代から受け継がれた「天保雛」をはじめ、市内の有志から借用した様々な「ひな人形」が飾られます。

ちなみに、「南昌荘」のお座敷は、2007年に放送されたNHKの朝ドラ「どんと晴れ」において、草笛光子さんが演じる、大女将の部屋のモデルになったそうです。

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■一ノ倉邸のひな遊ぶ


「一ノ倉」邸は、明治後期に、盛岡市出身の政治家で、東京府知事、千葉県知事、群馬県知事等を歴任した「阿部 浩」氏が建築した邸宅です。

「阿部 浩」氏は、その昔、当地を支配した「安倍氏※」の故事に習い、この邸宅を「吾郷楳荘(あきょうばいそう)」と呼んでいたようです。


さて、この「吾郷楳荘」は、その後「一ノ倉」氏に譲渡され、さらに平成4年 (1992年)に盛岡市が取得し、「南昌荘」と同様、現在は、盛岡市保護庭園となっております。


この「ひな祭り」、敢えて「ひな遊ぶ」と名付けたのは、各部屋に飾った「ひな人形」が、まるで遊んでいるかのように飾られる事に由来するそうです。


毎年、趣向を凝らした飾り付けが行われ、リピーターが多いのが特徴らしいです。

安倍氏前九年の役で「源 頼義」に敗れた「安倍貞任」が有名。安倍貞任の弟「安倍宗任(むねとう)」が、戦に敗れて都を引き回された特に、京の貴族が、侮蔑の意味で梅の花を差し出し、「これは何か」尋ねた所、安倍宗任は、次の句を読んで、貴族を驚かせた、と言う故事。「楳」の字は、「梅」と同義語。
「わが国の梅の花とはみつれども 大宮人はいかがいふらむ」(我が国においては梅の花と言いますが、こちらでは何と言うのでしょうか)

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盛岡市先人記念館ひな人形展示


このイベントは、「盛岡市先人記念館」と言う場所で開催されます。「盛岡市先人記念館」は、明治期以降に活躍した盛岡ゆかりの先人130人を顕彰し、遺徳を偲び、多くの偉大な人材を輩出した盛岡を広く紹介するために設立した記念館で、次の様な人達を紹介しております。

・新渡戸 稲造 :「われ太平洋の橋とならん」と言った、前の五千円札の人物
・米内 光正 :海軍大臣、総理大臣を歴任し、太平洋戦争を終結に導いた
金田一 京助 :言語学者。国語辞典の編集で活躍。


このイベントにおいては、盛岡市内の小間物屋の老舗として知られる木津屋※1(池野家)が寄贈した江戸時代末期のひな人形を展示します。華やかな江戸時代のひな祭の趣が味わえるそうです。

また、市内肴町の書店として親しまれた久保庄※2(佐藤家)が寄贈した「ひな人形」や、揚州周延※3(ようしゅう ちかのぶ)の木版画シリーズ『千代田の大奥』から江戸城大奥の「ひな祭」の様子が描かれた「雛拝見」も展示する予定だそうです。

※1木津屋:寛永15年(1638年)創業の小間物屋。現在は事務用品やOA機器を取り扱う
※2久保庄:天保12年(1831年)創業の小間物屋。現在は書店
※3揚州周延:江戸末期から明治にかけての浮世絵師。歌川国芳、歌川豊国の門人

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■盛岡町家・旧暦のひなまつり


このイベントは、「盛岡まち並み塾」と言う団体が主催しておりますが、盛岡市の鉈屋町(なたや-ちょう)界隈の商店や民家、約40箇所を特別に開放してもらい、「ひな人形」はもとより、民家の暮らしぶり等も紹介する趣向になります。

盛岡の新暦の3月はまだ冬で、路面に雪が残って歩きにくいことから、旧暦(4月)に「ひな祭り」を行ってきたそうです。


また、これら旧家は、嫁入り道具、あるいは「ひな人形」を女の子に買い与える習慣があり、購入した物を祭らないと不幸が起きたり、人形が泣いて火事を出したりする、と伝えられてきたそうです。

このため、各家においては、親族や友人達を招いて、ひな壇の前で小さな膳で食事をしたり、投げ扇、貝合わせ等したりする行事が絶えることなく行われてきたそうです。

※鉈屋町:盛岡市の中心部の北側に位置し、近くには盛岡八幡宮や「原 敬」の墓所である大慈寺等がある。
★鉈屋町の地図






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■花巻人形ひなまつり展


花巻人形は、京都の伏見人形、仙台の堤人形の製作技法を伝習した花巻鍛冶町の太田善四郎が、享保年間(18世紀初)から作り始めたと言われ、300年以上の歴史を持つ伝統工芸品となります。

この「花巻人形」は、粘土を合わせ型で抜き出して乾燥し、素焼きにして人形に胡紛の下地を塗り、絵の具などで着彩して仕上げられます。


地元においては「からげびな」と呼び、「ひな人形」や風俗物を始め、1,000種類以上の各種縁起物の人形が作られ、仙台の堤人形、米沢の相良人形と共に、「東北三大土人形」に数えられます。

花巻人形は、天保年間(1830年頃)が全盛でしたが、時代の変遷の中、次々と姿を消し、昭和34年「照井トシ」さんが亡くなってからは、その製作は一時途絶えましたが、昭和49年平賀工芸社が復元し、現在その製作を行っております。

このイベントは、「ブドリ舎」と言う場所で開催されますが、「ブドリ」とは、映画にもなった宮沢寛治の「グスコーブドリの日記」の主人公「ブドリ」の名前から採用されたイベント会場です。

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八日市ひなまつり


八日市ひなまつり」においては、地元女性グループによる手作りの「つるし雛」が展示され、その他、地元のおばあちゃん達や女性団体が一冬かけて作った手芸も展示されます。

この「つるし雛」は、直径40cm前後の紅白の輪に、7本の赤い糸を吊るして、1本の糸に7個(7種類)の人形を吊るすそうです。このため、1体の「つるし雛」には、全部で49個の人形が飾り付けられることになります。人形は、1つ1つが手作りで、野菜や果物、お花に動物等、それぞれの人形に意味があるそうです。


何故49個かと言うと、一説には男性の人生は50年、女性は一歩下がって49年と言われたことから、この数になったそうです。

さらに、赤い糸を使うのは、赤には厄除けの意味があり、輪に吊るすのは、全て丸く収めるという意味からだそうです。

昨年は17日間開催し 12,827人の見学者がありました。自分でも作りたいという方々の心をつかみ、期間中何度も来館するリピーターが沢山いるそうです。今年は更に人形の数を増や して展示されるそうです。

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■大迫・宿場の雛まつり


花巻市大迫町(おおはさま-ちょう)は、昔は、金、生糸、葉たばこ等の主要な生産地であり、江戸中期から昭和初期まで、盛岡市遠野市を結ぶ街道の宿場町として栄えた町です。

また、京都とも直接取引を行った関係で、大迫町の旧家には、京の「ひな人形」が大切に保管されております。

この「宿場の雛まつり」においては、町内の商店や民家に保存中の享保雛や次郎左衛門雛、古今雛など、江戸時代から明治時代にかけて作られた「ひな人形」が、旧家や商店の軒先に飾られます。


享保雛】
江戸中期の享保年間(1716〜1735年)に流行した雛人形で、坐雛の原型ともいわれる寛永雛を発展させた雛であるが、衣装が金襴や錦などを使う豪華なものとなり、面長で切れ目の目をもつ気品高い顔立ちが特徴。男雛は両袖を左右に膨らませて手に笏を持ち、女雛は五衣の重ねに唐衣姿で、三角に膨らませた赤い袴を着け、冠をかぶる
【次郎左衛門雛】
京都の人形師で、幕府の御用達であった雛屋次郎左衛門が作った事からその名が付いた。丸顔で、引目鉤鼻(ひきめかぎはな)と呼ばれる愛らしい目鼻立ちが特長。宝暦11年(1762年)頃から江戸で売り出されてからは、庶民の人気となった。男雛は公卿の装束姿で、女雛は両手を開き、五衣・唐衣に袴姿で、冠はかぶらない。
【古今雛】
江戸時代の明和年間(1764〜1772年)頃に作り始められた江戸生まれの雛人形。江戸十軒店(じゅっけんだな)の人形師であった「原舟月」が顔を作り、古式に則った有職雛の形式で作り上げた。目にガラスや水晶で象眼するなどの工夫がなされ、衣装も豪華で艶やかである。古風な趣のある雛と言うことで、「古今集」になぞらえ古今雛と呼ばれる。

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■遠野町家のひなまつり


遠野市は、元々は南部藩の城下町であり、内陸と沿岸の交易の場所だったことから、遠野の町家には、古くからの雛人形が数多く伝えられます。

昔は、それぞれのお宅の雛人形を、「見せておぐれんせ」と巡り歩いたものだと云われており、この行事を、現在に復活させたのが「遠野町家のひなまつり」となります。

この「遠野町家のひなまつり」においては、JR遠野駅近辺の旧家や商店、あるいは小学校など、20箇所程度に趣向を凝らした「ひな人形」が展示されます。

また、このイベント期間中は、期間限定の「雛団子」やお菓子が販売されたり、「ひな人形」を作成する体験イベント等も開催されたりします。


イベント会場については、無料の「ひなめぐりMAP」が用意されておりますし、街中には、「カッパ」のマークの入ったウィンドブレーカーを着た「専門ガイド」も居るそうです。



さらに、遠野には、「語り部1000人プロジェクト」なるものが存在し、特定の会場だけですが、遠野市の認定を受けた「ひなの語り部」が居て、各家々の「ひな人形」の説明を行ってくれるそうです。


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■奥州水沢のくくり雛まつり


「奥州水沢のくくり雛まつり」においては、水沢地方に古くから伝わり、伝統文化でもある「くくり雛」を、3月の「ひな祭」の時期に合わせて区内各所で公開展示します。また「くくり雛作り体験コーナー」等も合わせて行われる予定です。

「くくり雛」という呼び名は、水沢地方独特の呼び名で、全国的には「押し絵」と呼ばれるものになります。

この地方の方言で、綿を布でくるむことを「くくる」ということから「くくり 雛」と呼ぶようになったそうですが、人物や花鳥などの形を厚紙で作り、これを美しい布でくるみ、中に綿を詰めて高低をつけ板などに張り付けた物になります。


「くくり雛」には、内裏雛の他、歴史上の人物や浮世絵、風俗など様々な種類があり、現在も水沢区内の旧家に数点が現存するほか、「水沢くくり雛保存会」が中心となり、伝統を継承しております。

水沢地方においては、明治頃から昭和初期まで、三月の桃の節句には町内の多くの家で「くくり雛」を飾りました。これは、水沢の南宗派画人「砂金竹香」が、1986年(明治29年)に、京都で開催された大日本勧業博覧会に出品の「押絵」の技法を覚えてきて、水沢に広めたといわれてきました。

しかし、最近発見された「土谷家」伝来の資料の中に、文久2年(1862年)の年号が記された「くくり雛」が発見された事から、「くくり雛」の歴史は、江戸時代までさかのぼる事ができます。

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■せんまやひなまつり


「せんまやひなまつり」は、国有形文化財である「くら交流施設」を主会場とし、その他、千厩(せんまや)商店街で開催される「ひな祭り」です。

「くら交流施設」は、元々は、造り酒屋である「横屋酒造」を営んでいた「佐藤家」が、大正13年(1924年)に竣工した、住宅を兼ねた酒造工場で、24棟もの建造物と石掘が立ち並ぶ建造物です。


旧横屋酒造・佐藤家住宅は、吹きガラスやイタリアタイルなどの洋風材と白壁、土蔵作りなどの和風建築が見事に調和しており、敷地内には、「馬事資料館」もあり、馬の産地であった千厩の先人たちが、馬と共に生きた証の馬具等も展示中です。

ちなみに、この場所においては、現在でも酒造りを行っており、地酒「玉の春」を醸造しております。

イベントの主会場となる「くら交流施設」においては、大正から昭和に掛けて作成された20組以上の「ひな人形」が飾られますし、千厩商店街でも、約50店舗が「ひな祭り」に参加し、スタンプラリー、「つるし雛作り」体験、子供茶会、子供フェスタ等が開催されます。

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これまで、「ひな人形」には余り興味がなかったせいもありますが、色々な種類の「ひな人形」があり、特に、岩手県内固有の次の様な「ひな人形」の存在を、初めて知る事ができました。
・花巻人形
・くくり雛

各会場も「ひな祭り」だけでなく、会場や、その周辺も巻き込んで、結構面白そうなイベントも行うようです。

もしも、この季節、岩手県内にお越しの場合は、各地で開催される「ひな祭り」もご覧下さい。

各「ひな祭り」の情報については、下記のサイトをご覧下さい。開催場所や問合せ先情報が掲載されております。
いわてのひなまつり:公益財団法人岩手県観光協会

以上

【画像・情報提供先】
Wikipedia(http://en.wikipedia.org/wiki/La_mascotte)
公益社団法人日本観光振興協会(http://www.nihon-kankou.or.jp/)
・人形工房 アップルベリーblog(http://blogs.yahoo.co.jp/toritama67)
・東北文化の日(http://tohokubunka.com/)
盛岡市先人記念館(http://www.mfca.jp/senjin/)
・盛岡まち並み塾(http://machijuku.org/)
・一般社団法人花巻観光協会(http://www.kanko-hanamaki.ne.jp/)
・ウチノメ屋敷(http://www.uchinome.jp/index.html)
・花巻観光協会公式ブログ(http://kanko-hanamaki.blogspot.jp/)
・いちのせき観光ナビ(http://ichitabi.jp/)
・全国近代化遺産活用連絡協議会(http://www.zenkin.jp/)

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