社内システムのクラウド化 〜 皆でクラウドにすれば怖いくないのか ? −その1


近頃、盛んと社内システムのクラウド化の話を聞きますが、皆さんの会社は、どうなっていますか ?


AWS、Azure、GCP、Cloud n、Nifty Cloud、IIJ GIO、ホワイトクラウド・・・全て業者が提供するクラウドサービスの名称ですが、聞いた事ありますか ?


弊社のお客様でも、主たる目的は「コストダウン」ですが、次のような事を目的として、社内システムのクラウド化を検討されている企業も数多くいらっしゃいます。


・コスト削減
・システム統合
・社員(人的リソース)不足の問題解決
・処理能力(システムリソース)不足の問題解決
・災害(ディザスター)対策・・・・・etc.


確かに、こうしてメリットを挙げて行くと、これまでの社内システム構築/運用と比較すると、「良い事ずくめ」のように見えてしまいます。


恐らく、世間一般の「Sier」やIT企業も、このようなメリットを掲げて、企業に「クラウド化」を迫っているのだと思います。


確かに、世の中は、「社内システム(オンプレミス)」から、「プライベート・クラウド」に切り替える流れが出来ており、日本国内、あるいは海外拠点に、データセンターを建設する動きが活発化しています。


先日、7/26に東京都多摩市唐木田のビル建築現場で火災が発生し、作業員4名の方が死亡した事故も、データセンターの建築現場との事で、日本国内にでも、システムのクラウド化に対応すべく、様々な場所で、データセンターの建築ラッシュとなっているようです。


そして、このデータセンターに関しても、先月号(8月)のメルマガ「気になる情報」でもお伝えした様に、「海底データセンター」を始めとした新しい技術を導入して「省エネ」や「排熱」等の問題を解決する、新しいデータセンターの構想も生まれている様です。

★過去メルマガ:エム・システム情報マガジン(第87号) - 気になる情報


他方、クラウドの生死を握るサーバーの性能に関しても、コンピューターのチップセット(半導体)の改良が図られつつも、「ムーアの法則は、既に死んでいる !」と言う説も唱えられているようです。

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ちなみに、「ムーアの法則(Moore's law)」とは、米インテルの創業者の一人である「ゴードン・ムーア(Gordon E. Moore)」氏が、1965年に、自らの論文で唱えた『 半導体の集積率は18か月で2倍になる。 』と言う半導体の成長に関する生産指標です。


半導体集積率」とは、同じ面積の半導体ウェハーに、半導体チップを何個乗せる事が出来るのか、という事を意味しています。


つまり、これは、半導体の微細化技術の発展により、1個のウェハーに、当初は「100個」の半導体チップを乗せる事が出来る技術が、18ヶ月後には「200個」の半導体チップを乗せる事が出来るように発展し続けると言う事になります。


集積率のアップが何を意味するのかと言うと、サーバーを含めたコンピューターに搭載する半導体を、18ヶ月毎に2倍にすることが可能になる訳ですから、コンピューターの性能も18ヶ月毎に向上させる事が出来ると言う事になります。


さらに、同一面積に、数多くの半導体を製造する事が出来るようになると言う事は、極端な話では、製造コストも18ヶ月毎に半分で済むようになります。


このように、18ヶ月毎に、性能が向上し、かつ製造コストを半額に出来ると言う指標があれば、半導体製造会社は、この指標に基づいた経営計画を立てることが可能になります。


これが「ムーアの法則」なのですが、この法則は、前述の通り、1965年、今から50年以上も前に提唱された法則です。


しかし、50年以上も前に提唱された考え方とは言え、つい最近までは、この法則通りに半導体製造技術は発展してきたようです。


ところが、近頃では、半導体の微細化技術の発展スピードが鈍ってきた事から、この経験則も、既に限界に達したのではないかと言われ始めています。


実際に、2005年には、「ゴードン・ムーア」氏自身も、雑誌のインタビューで、『 ムーアの法則は長くは続かないだろう。 』と語っています。


また、その後も、2016年には、「Lifetime of Innovation Award」を受賞した際にも、『 こんなに長く続くとは思ってもいなかったので、ムーアの法則がいつ終焉を迎えても驚かない。 』とも語っています。


また、「ゴードン・ムーア」の話によると、この法則自体、元々は、1965年の時点で、過去5年間の集積回路の集積傾向をまとめたものだとしていますので、その後、50年以上も、この法則が成立していた事自体、驚きと言って良いと思います。


確かに、現在では、水平方向での微細化技術は限界を迎えているようですが、今度は、垂直方向に半導体を積み重ねる事で、さらなる集積率の向上を狙っているようです。今後も、技術者は、限界を超えるよう努力し続けるのだと思います。

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話が、「クラウド」から「ムーアの法則」に移ってしまいましたが、このように多方面から「システムのクラウド化」を推し進める状況が生まれているようです。


他方、「本当にクラウドは大丈夫なのか ?」と心配している経営者は沢山いると思います。


実際に、「クラウド 失敗事例」と言うキーワードでWebを検索すると、(全ての内容を閲覧した訳ではありませんが)大量の、約300万件以上もの関連サイトが表示されます。


そこで、今回、何回かに別けて、「クラウド化」に関して、次のような情報を提供しようと思います。


●そもそもクラウドとは何 ?
クラウド化メリット/デメリット
クラウドの種類
クラウド導入までの全体の流れ
●コスト削減手段としてのクラウド
●本番カットオーバーまでの時間短縮としてのクラウド
クラウドによる本番業務カットオーバー後の問題


しかし、「クラウド化」の話題を進めている最中に、何か新しい情報を入手したら、話の内容は変更になってしまうかもしれませんが、その点はご了承願います。

今回は、最初に、企業経営者の中には、下記のブログでも紹介した様に、「ITオンチ」の経営者が、まだまだ数多く存在していますので、「クラウド」とは、どのような仕組みなのかを説明したいと思います。

★過去ブログ:「IT音痴」が招く会社の危機 〜 あなたの会社は大丈夫 ?


また、「クラウド」に関しては、「クラウドを導入する場合、どの業者のクラウドを使えば良いのか ? 」と言う疑問もあるかと思います。


しかし、「自社システムのクラウド化」は、その会社毎に、現在のシステム環境も、そしてクラウド化の目的自体も異なるので、一概に、「この業者だ ! 」と言う様な紹介は出来ません。


それでは今回も宜しくお願いします。


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■そもそもクラウドとは何 ?


クラウドに関しては、実は、かなり前、弊社ブログを開設した当初(2011年)にも、下記ブログで取り上げています。

★過去ブログ:今話題のクラウドについて


そして、その中でも、クラウドの種類とか、メリット/デメリットを紹介しています。


「何だよ、同じ話題の繰り返しか !? 」と感じると思います。


私も、今回、この話題を取り上げる時に、当然、この過去ブログの事は解っていましたので、同じ話題を取り上げるのは「何だかな 〜」とは思いました。


しかし、この過去ブログは、2011年当時の内容です。当然、現在は、クラウドの提供の仕方も進化しています。


クラウドの考え方自体は、当時と変わっていない部分もありますが、特に、サービスの提供の仕方が大幅に進化しています。


当時は、ようやくAWS(アマゾン・ウェブ・サービス)が、日本においてサービスを開始した年ですし、Microsoft社のクラウド「Azure(アジュール)」も、ようやく「ASP(Application Service Provider)サービス」として紹介され始めた年でもあります。


それから8年、「クラウドサービス」は、大幅に進化していますが、前述の通り、「クラウド」と呼ばれている物に関する考え方は変わっていません。

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と言う事で、「クラウド」とは何かを説明したいと思いますが、基本的に、この点に関しては、2011年当時と、考え方は変わっていません。


当時も現在も、「クラウド」の定義は明確になっていません。


2011年当時は、ネットワークを経由して使用できるソフトウェアやハードウェアの事を意味していました。


つまり、下記4つの利用形態全てを「クラウド」と呼んでいました。

略称 名称 内容
SaaS Software as a Service ソフトウェアを提供するクラウドサービス
PaaS Platform as a Service 基礎部分(開発環境)を提供するクラウドサービス
IaaS Infrastructure as a Service ハードウェア等のインフラを提供するクラウドサービス
HaaS Hardware as a Service 同上


SaaS」等、またIT業界特有の3文字/4文字英語ですが、全て最後は「as a Service」となっていますので、日本語訳としては「サービスとしての〜」と考えれば分かりやすいと思います。


例えば、「SaaS」は、「サービスとしてのソフトウェア」となりますので、「クラウドサービスとしてソフトウェアを提供する事」になります。


その他、「Platform」は「基礎部分」、「Infrastructure」は「ITインフラ」と考えれば、クラウドサービスとして、何を提供するのかが分かりやすいと思います。


そして、この考えは、2018年になっても変わりません。

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ところが、近頃では、上記クラウドサービス以外にも、次のような言葉も登場しだしてします。


●XaaS

「X as a Service(ザース)」、未知の値「X」を取り入れ、全てのサービスをクラウド形式で提供する事を意味する言い回し。「X」の箇所に、(Amazonではありませんが、)「A」〜「Z」の英語を当てはめて、勝手に言葉作っているようです。謂わば、「言って者勝ち」の様な状況です。例えば・・・


・AaaS :Analytics as a Service → 解析サービス
・BaaS :Backup as a Service → DBのバックアップ・サービス
・CaaS :Communication as a Service → テレビ会議サービス
・DaaS :Data as a service → データ検証サービス



・ZaaS :Zangyo as a Service :サービス残業の事、日本のジョーク


●Evrything as a Service

ネットワーク経由で、コンピューター処理に必要となる、下記のような、ありとあらゆる物を提供するサービス。
→ ネットワーク、デスクトップ、ハードウェア、ミドルウェア、ソフトウェア、ストレージ


クラウドとは、もう、PCやスマートフォン以外、業務運用に関わる全ての物を、ネットワーク経由で提供する事が出来る時代になってしまったようです。

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次は、「言葉の定義は解った。それで、今までと具体的に何が違うの ? 」となるかと思いますので、図を用いて説明します。


●これまでの「社内システム」


従来の社内システムでは、社内にサーバールームを設け、その中に、自社で購入したサーバーを設置し、情報システム部の社員が、下記のような手順で各種ツール等をセッティングして、社員が使えるようにしていました。


(1)サーバーに、サーバー用OSをインストールして、サーバーが稼働できるようにする。
(2)サーバーに、社内システム、および各種ツールをインストールして、社内でツールが使用できるように準備をする。


その後も、何かシステムやツールに不具合があれば、情報システム部の社員が、問合せを受け付けて不具合等を調査し、問い合わせ先に回答すると共に、システムの修正等を行っていました。


このため、社内情報システム部の社員は、社内で使うIT系システムに関しては、全てのソフトウェアのみならず、ハードウェアの知識までも必要です。


情報システムに配属された社員は、直ぐに、このようにソフトウェアやハードウェアのスキルを保持する事は出来ませんので、「OJT(On the Job Training)」等を通して、数年間の時間を掛けてスキルアップを図る必要があります。


企業は、上記のような仕組みを構築するため、下記リソースに多大な費用を掛けて、社内システムを維持し続けなければなりません。


・人材リソース :社員採用、社員教育、社員への給与支払い/福利厚生、等
・ソフトウェア。リソース :ソフトウェア・ライセンス購入/リース、保守料金
・ハードウェア・リソース :ハードウェア購入/リース、保守料金、サーバールーム維持費


そして、このようなシステム運用をIT用語では「オンプレミス(on-premises)」と呼んでいます。


クラウドによる「社内システム」


そして、この「オンプレミス(自社運用)」をクラウドに切り替えると、何が違うのかを著したのが左図です。


これまで社内に設置していた各種サーバーを、クラウド業者が保持しているデータセンターに移す事になります。


サーバーを、業者のデータセンターに移す訳ですから、当然、サーバーで稼働していた各種システム/ツールも、業者のサーバーで稼働する事になります。


そして、業者のデータセンターにはネットワーク経由でアクセスし、データセンター内のサーバーにインストールされているシステムやツールを使用する事になります。


当然、サーバーを移行する時には、業者と情報システム部の社員が、一緒にシステムやツールの移行作業を行う必要はありますが、一度、データセンター内のサーバーにシステムを移行した後は、サーバーのメンテナンスやデータのバックアップ等の作業は、クラウド業者が行う事になります。


とにかく、社内システムをクラウド側に移行した後、情報システム部は、下記のような面倒な作業から開放される事、「お役御免」となります。


・サーバーの死活管理
・サーバー処理速度管理
・データやシステムのバックアップ作業
・サーバールームの温度管理


但し、システムやツール自体の不具合に関しては、業者は面倒を見きれませんので、その点は、従来通り、情報システム部が責任を負うことになります。


また、データ量や社員数の増加等により、システムの処理速度が低下した場合、サーバーの性能アップやハードディスク容量を増やす必要があります。


この場合、従来は、情報システム部の社員が、稟議書を書いて予算を獲得し、サーバーを購入してアップグレード作業を行っていましたが、これも、クラウド業者との契約を見直し、メモリー増量等を行う事だけで対応が取れるようになります。


まあ、契約変更に伴い、支払は増えるので、稟議書を書いて、予算を増額する事は従来通りですが・・・


このように、このように何らかのリソースが不足した場合も、基本的には、リソース追加等の契約変更を行うだけで対応が取れるようになります。


・ライセンス数追加
・メモリー量増加
・ディスク容量増加・・・・等


また、上記とは逆に、リソースが減る場合も、契約変更だけで、柔軟にリソースやキャパシティを変更する事が可能になります。

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このように、何か、「万能ツール」の様な仕組みを提供する「クラウド化」ですが、実は、魔法のように急に現れた訳ではありません。


前述の過去ブログに記載していますが、「クラウド」と言う仕組みと考え方自体は、ずっ〜と昔から存在していました。


業務のシステム化の流れに関しては、下記過去ブログで「レガシー・マイグレーション」として紹介しています。

★過去ブログ:モダナイゼーション 〜 なぜ今、必要なのか ? - 前編


コンピューター、および業務システムは、次のような流れで進化して来ました。

項番 時代 名称 キーワード
1 〜1990年 メインフレーム IBM社製S/360、370、MVS、390、z/OS
2 1990年代 クライアント/サーバー WindowsUnixTCP/IPISDNASP
3 2000年代 Webシステム LinuxApacheMySQLPHPJavaADSL光通信
4 2010年〜 クラウド 仮想化、AWS、Azure、GCP、Cloud n


この流れの中で、既に1990年代には、「ASP(Application Service Provider)」と言う言葉が生まれました。


この「ASP」を日本語に訳すと「アプリケーション(ソフトウェア)サービス提供事業者」となります。


より詳しい説明をするなら、「ソフトウェアをネットワーク経由で提供するサービスを行う事業者」と言う事になりますので、まさに、現在のクラウドサービスと同じです。


しかし、当時は、まだ現在のように大容量で、かつ高速なネットワーク環境が整っっていなかった事と、操作性がイマイチだったので、日本では「ASP」事業は、当初想像したようには浸透せず、消えてしまいました。


そんな状況を経て現在です。


高速で、かつ大容量のデータ通信が当たり前の世の中になり、また、Webブラウザも進化を遂げ、さらには、かつてはMicrosoft社が提供する、全く使い物にならない「IE(Internet Explorer)」しか使えなかった時代は、過去のものとなってしまいました。


このように、過去に生まれた技術が、現在になって、ようやく使い物になったのが「クラウド」です。


理論(考え方)が先行し、ようやく技術が追い付いたと言う所なのだと思います。

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さらにクラウドを実現するために必要な技術として「仮想化技術」があります。


従来、1台の物理サーバーを使う場合、1台分のスペースが必要でした。例えば、企業1社をクラウド化する場合、1台の物理サーバーが必要とします。


そうなると、5社の企業をクラウド化する場合、5台の物理サーバーが必要になります。


しかし、現在では、「仮想化技術(ハイパーバイザー)」が進歩し、1台の物理サーバーで、5台分の仮想サーバーを構築する事が可能になっています。


このような仮想化技術の進歩により、データセンターにサーバーを集約することが可能になった事も、クラウド化を推し進める事になっています。


但し、この仮想化技術では、1台のサーバーを複数のユーザーが使い回す事になるので、便利な半面、セキュリティに対するリスクが生まれる事にもなってしまっています。


この点は、後述する「クラウドのデメリット」の一つになっています。

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クラウド化メリット/デメリット


ネットワーク経由で、コンピューター運用に関わるほとんど全てのリソースを利用する事が出来る仕組みが「クラウド」である事は、お解りかと思います。


そうなると、メリットは、簡単に、何個も思い付くはずですので、まずは「クラウドのメリット」から紹介します。


下記に、社内システムをクラウド化する場合のメリット/デメリットを紹介します。


クラウドのメリット

(1)サーバールームが不要になる
クラウド業者が提供するサーバーを利用するので、自社のサーバールームが不要になります。但し、一部業務だけをクラウド化する場合、それ以外の業務用サーバーは、従来通り、社内に残る事になります。


(2)空調費用が不要になる
上記、サーバールームが不要になるので、サーバールームを冷やしていた空調設備、および電力も不要になります。


(3)サーバー管理者が不要になる。
上記からの流れで、サーバーが無くなるので、当然、サーバー管理者が不要になります。但し、クラウド業者と連絡を取る担当者(窓口)は必要です。


(4)システム構築費用が安価になる
サーバーを含むハードウェア、およびサーバーにインストールするOS等のソフトウェアに関しては、クラウド業者が用意した環境を使用するので、初期システム構築費用を安価に抑える事が出来ます。


(5)システム構築期間の短縮
社内にシステムを構築する場合、通常、数ヶ月間の期間が必要になりますが、クラウドの場合、基本的な設定はクラウド業者が行うので、短期間でシステム構築を構築する事が出来ます。但し、後述しますが「プライベート・クラウド」を選択した場合は、かなり構築時間が必要になります。


(6)災害対策の強化
現在では、ほとんどのデータセンター自体が免震/耐震構造になっているので、自社では対応が難しい災害対策を施す事が可能になります。さらに、オプション等の契約の仕方にもよりますが、災害発生時に別のデータセンターにシステムを移築する事も可能なケースもあります。


(7)スケーラビリティが高い
自社システムで運用時に、処理パフォーマンスが低下した場合など、メモリー等ハードウェアを増強しなければなりませんが、この場合、予算獲得から実際に対応が済むまで、かなりの時間が必要になります。しかし、クラウドの場合、契約を変更するだけで、直ちにハードウェアの増強が可能です。また、逆に各種リソースを減らす事も自由に行えます。

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クラウドのデメリット

(1)セキュリティ・リスク
前述の「仮想化技術」を使った運用を選択した場合、1台の物理サーバーを、複数社で使い回す運用になるので、セキュリティのリスクが高くなります。また、クラウドにアクセスする場合、常に、外部ネットワーク経由となるので、社外からアクセスする場合、アクセスポイント等も問題になるケースもあります。個人情報や社内機密が漏洩しても、契約の範囲以上の責任は取ってもらえません。


(2)カスタマイズ対応が難しい
社内システムは、自社用に、多くのカスタマイズをしていると思いますが、クラウドの場合、カスタマイズ出来るケースと出来ないケース、またカスタマイズ出来ても、完全に、従来通りのカスタマイズが出来ないケースがあります。クラウド環境を業者が用意するので、社内システムと完全に一致させる事は、まず無理と考えた方が良いと思います。


(3)ネットワーク環境が無いと使えない
当然と言えば当然ですが、クラウドにはネットワーク経由でアクセスするので、ネットワークが使える場所でしか使えません。地下鉄、地下室、インターネット環境が劣る地方などでは、クラウドにアクセス出来ないケースもあります。また、大規模ネットワーク障害が発生すると、社内システムが停止してしまう可能性もあります。

(4)直接障害対応が出来ない
メリットに「障害対応は業者が行ってくれる」と記載していますが、その逆です。全て業者任せになってしまうので、こちらからは進捗状況を管理画面等で見守る事しか出来なくなります。これまでは、直接対応したり、電話越しに文句を言ったりすれば、迅速に対応してもらえたかもしれませんが、クラウドにすると、何も出来ません。文句を言っても余り効果はありません。


(5)他システムと連携出来ないケースがある
これも上記同様、ハードウェアやソフトウェア等、ほぼ全てを業者が提供するので、他システムと連携出来なくなるケースがあります。社内システムでは、カスタマイズを施す事で対応出来ていた事が、クラウド化で出来なくなるケースがあります。


(6)システムの継続性が保証出来ない
何度も記載しますが、全て業者任せです。企業向けクラウドでは、まだこのような自体は起こっていませんが、業者が倒産してしまい、サービスが使用出来なくなる可能性もあります。また、ちゃんとした契約を締結しないと、データセンターの災害で、システムが停止、最悪、データが消えてしまう可能性もあります。


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他方、システムには、品質を評価する基準があります。


そして、品質には、大きくシステムが提供する機能の品質を評価する基準と、システムの使いやすさを評価する基準の2種類の基準があります。


システムが提供する機能は、システム毎に異なりますが、システムの使いやすさに関しては、どのようなシステムに関しても、ほぼ同じで、『 非機能要件 』と呼ばれ、次のような基準があります。


【 非機能要件 】
可用性 :継続して運用できる能力で、耐障害性、災害対策、回復性、等を意味する。
性能/拡張性 :処理能力、処理速度、および各種リソースの拡張のし易さを意味する。
運用/保守性 :障害対応方法、連続運用への対応等を意味する。
移行性 :データ移行、機器(ハードウェア)の移行のし易さ等を意味する。
セキュリティ :監視、診断、追跡、リスク対応、利用制限、リカバリー等の対応方法を意味する。
環境 :機材設置環境条件や環境マネージメント等、環境に優しい設置場所を意味する。


上記は、代表的な「非機能要件」で、それ以外にも細かく分類すれば、数十種類もの評価項目を挙げる事も出来ます。


今回、クラウドのメリットを見てみると、次の「非機能要件」は、ある程度は満たしていると思われます。 → 可用性、性能/拡張性、移行性、環境


しかし、やはり「セキュリティ」に関しては、ハードウェア、およびソフトウェアを、クローズ環境である「社内」から、オープン環境となる「社外」に出してしまう事から、リスクが高まってしまうのは致し方無いとは思います。


また、運用や操作性に関しても、業者提供環境に、完全に依存してしまうので、社内システムの様に、自社の運用に特化したカスタマイズを望むのは無理があります。

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一方、前述の「そもそもクラウドとは何 ? 」に記載した通り、クラウドにも、サービスの種類があります。 SaaS、PaaS、IaaS・・・


この内、「IaaS(アイ・アース)」と呼ぶクラウドサービスの場合、基本的には、ハードウェア等のインフラを提供するクラウドサービスとなりますので、このサービスを上手く使えば、既存の社内システムに、ある程度は近づける事が可能になります。


このようなサービスを「プライベート・クラウド」と呼びますので、次章で、このサービスの内容を紹介したいと思います。

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クラウドの種類

前章で、クラウドの種類として、「SaaS」や「IaaS」等と言うクラウドサービスの種類を紹介しましたが、このようなサービスの分類方法とは別に、クラウドサービスを、次の2種類に分類する方法もあります。


・パブリック・クラウド :仮想化技術を用いて、大勢の顧客に仮想サーバーを提供するサービス
・プライベート・クラウド :企業毎に専用サーバーを用意して提供するサービス


どちらの利用形態も当然、クラウドサービスなのですが、簡単に言うとサーバーを「共有するか否か」の違いとなります。


もっと簡単に言うと、ハワイなどのビーチに、ホテル専用の「プライベート・ビーチ」が用意されていますが、それと似たイメージです。「ビーチ」を皆で一緒に使うか、それともホテル宿泊者だけで使うのかの違いです。


そこで、簡単に、上記2種類のクラウドサービスの利用形態を紹介します。

サーバー 環境 ソフト 費用
パブリック・クラウド 共有 選択不可 選択不可 安価
プライベート・クラウド 専有 選択可 (ある程度)選択可 高額

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ところが、上記2種類のサービス形態であれば、分類方法が単純なので、どのようなサービスを利用すれば良いか、比較的簡単に決める事が出来たと思います。


しかし・・・世の中、簡単な仕組みを、わざと複雑にして、公務員のような輩(やから)が必ずいます。


そして、このクラウドサービスに関しても、既存のサービスの隙間を突くような新サービスが生まれ、クラウドサービスの提供形態が複雑になって来ています。


下記にクラウドサービス、そして過去に流行したホスティングやハウジングのサービス概要を記載しますが・・・記事を書いている、コチラも訳が解らなくなってしまいそうです。



ホスティング(レンタル)
サーバー共有/専有、業者設置、変更不可、料金固定

●ハウジング
サーバー自前、業者設置、変更可、料金従量制

●パブリック・クラウド
サーバー共有、業者設置、変更不可、料金従量制

プライベートクラウド-ホステッド-デディケイテッド
サーバー専有、業者設置、変更可、料金従量制

プライベートクラウド-ホステッド-コミュニティー
サーバー専有、業者設置、変更可、料金固定

プライベートクラウド-オンプレミス
サーバー自前、自社設置、変更可、料金固定


なお、料金体系などは、業者により異なるので、「この利用形態なら月額固定」と言う訳ではありませんので、最終的には、業者に問い合わせて下さい。


それでは、以降に、「パブリック・クラウド」と大きく「プライベート・クラウド」の仕組みを紹介します。

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●パブリック・クラウド

・業者が提供するコンピューティング環境を、そのまま不特定多数のユーザーに提供するサービス
・ネットワーク等、全てのコンピューティング環境は業者側で仮想化され、不特定多数の利用者が、ほぼ全ての環境を共有して使用する。
・サーバー設置場所を含め、全てのコンピューティング環境は、業者側が用意した環境に従わなければならない。利用者側は、業者から提示された利用条件に従う必要がある。
・全てが、業者側から提示されたパッケージになっているので、利用料金が非常に安価となる。
・同様に、既に用意されたパッケージを利用するので、契約完了後、直ちにサービスを利用する事が出来る。
・さらに、(通常の場合)サービスを停止したい場合も、直ちにサービスを停止する事が出来る。
・ハード、およびソフト、全てを業者側で用意/管理してくれるので、利用者は、ハード/ソフトの維持管理から開放される反面、障害が発生した場合など、一切手出しする事が出来なくなる。
・パブリック・クラウドサービス提供業者としては、次のような企業によるサービスが有名である。
GoogleAmazonMicrosoft

●プライベート・クラウド

ここでは、プライベート・クラウドに関して、次の2種類のサービスを紹介します。

▲ホスティッド・クラウド
・その昔、「ホスティング」と呼ばれていたサービスに類似したサービスとなる。
・業者が、利用者毎に、専用のサーバー、ストレージ、あるいはデータベース等のリソースを用意する。
・利用者は、サーバー等の機器を購入する必要は無いし、自身ではシステム構築する必要も無い。
・基本的に月額固定で業者が提供する環境にシステムを短期間で構築して利用する事が出来る。
・この利用形態の場合、ネットワーク環境は専用回線、あるいはVPN回線を利用出来るので、セキュリティ・レベルを高める事が出来る。
・また、カスタマイズも出来るので、企業の業務システムに適した環境と言える。

さらに、この「ホスティッド・クラウド」に関しては、次の2種類の利用形態も存在する。

★デディケイテッドプライベートクラウド(DPC:Dedicated Private Cloud)
・業者が既に運営しているパブリック・クラウド環境の一部を、特定の利用者に専有させる利用形態。
・このサービスは、次の業者が提供している。→ Amazon Virtual Private Cloudや、MicrosoftのVirtual Network、IBMのBlueMix Dedicated


★コミュニティープライベートクラウド(CPC:Community Private Cloud)
・業者が、利用者の要求に合わせてカスタマイズしたクラウド環境を構築して提供するサービス。
・一般的には、同業種の企業が共同で構築して運営しているケースが多く、そのため「コミュニティー」と呼ばれている。
・費用は、パブリック・クラウドに近く、安全性はプライベート・クラウドに近いと言う「良いとこ取り」のような仕組みと言われている。
・このサービスは、次の業者が提供している。→TTコミュニケーションズのBizホスティング Enterprise Cloudや、NSSOLのabsonne、CTCのCUVICmc2

※なお、米「salesforce.com, Inc」社が提供する「Community Cloud 」と言うサービスは、このクラウドサービスとは異なるサービスとなります。

▲オンプレミス・クラウド
・企業自身が、サーバー/ストレージ等のハードウェアを購入し、その上で、企業内の環境に、ハードウェアを設置する。(従来型オンプレミスと同様)
・その後、利用者自身が、仮想化ソフトウェアを用いて、専用のクラウド環境を構築し、社内の利用者に、クラウドサービスを提供する事になる。
・このため、当然と言えば当然であるが、自社運用にあった柔軟なシステム設計と堅牢なセキュリティ環境を構築する事が可能となる。
・つまり、この利用形態は、企業自身がクラウドサービス提供者となり、社内の各部署が、クラウドサービス利用者となる。
・このため、これまで紹介してきたクラウド利用形態の内で、最も高額なクラウドサービスとなる。
・従来型のオンプレミス、つまり社内システムと異なる点は、社内で仮想化技術を用いて、コンピューティング環境とリソースを各部署に配分出来る点となる。

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クラウドサービスの利用形態・・・理解出来ましたか ? 正直な所、私は、未だに「?」の状態です。


実は、この部分、クラウドサービスの内容に関しては、私の感覚では、まだ、業界内でも、しっかりと定義されていないように感じます。


と言うのは、今回、様々な紹介サイトを見ましたが、どの説明にも一貫性がなく、細かな部分で、説明が異なっていたからです。


さらに、その説明文を掲載しているのが、クラウドサービス提供事業者です。


つまり、クラウドサービスを提供している事業者自身、各クラウドサービスの内容を、はっきりと理解していない事を意味しています。


プライベート・クラウドの部分に新たに登場した下記2つのサービス形態、それとプライベート・クラウドの「オンプレミス型サービス」、これらに関しては、まだまだサービス内容が変わって行く可能性があると思います。


・デディケイテッド・クラウド
・コミュニティークラウド


クラウドサービス」で、かつ「オンプレミス」・・・全く正反対のサービス概念を、合体させたサービスですから、余計に訳が解らなくなってしまいます。

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今回、「クラウドサービス」に関して、次のような内容を紹介しましたが、如何でしたか ?


●そもそもクラウドとは何 ?
クラウドのメリット/デメリット
クラウドの種類


日本において、「クラウド」と言う言葉が使われ始めて、今年で8年ほど経ちましたが、未だに、サービス内容が統一されていないようです。


そもそも、8年経っても、日本のみならず、世界中のIT業界においてさえ、「クラウドとは何か ?」が明確になっていません。


兎にも角にも、ネットワーク経由でコンピューター関係のハード/ソフトを利用する事、全てが「クラウド」と呼ばれてている状況が続いています。


その上、さらにサービスの利用形態が増え、終いには「オンプレミス・クラウド」等と言う、「真逆」の言葉が使われる自体になってしまっています。


このような無法地帯のような状況が、「XaaS」や「Evrything as a Service」等と言う言葉を生み出しています。


しかし、まあ、私達、日本人も「明暗」とか「勝負」とか、真逆の漢字を結合して二字熟語として使っていますので、そのうち、何百年か経過すれば、「違和感」など抱かなくなるのかも知れません。

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そして、次回以降ですが、次のような内容を紹介したいと思っています。


クラウド導入までの全体の流れ
●コスト削減手段としてのクラウド
●本番カットオーバーまでの時間短縮としてのクラウド
クラウドによる本番業務カットオーバー後の問題


現在は、業務運用の「救世主」の様に持ち上げられているクラウドですが、実際に、クラウド運用を止めて、オンプレミスに戻す企業も出始めています。

私を含め、多くの日本人は、本ブログで、何度も触れていますが、とにかく「新しもの好き」が多いようです。


現在は、ネコ様には失礼ですが、猫も杓子もクラウドクラウドと騒いでいますが、過去には、日本中で「ERP(Enterprise Resources Planning)」に突っ走った過去があります。


この時も、長年の経験を注ぎ込んだ社内システムを廃棄し、数億円もの費用を掛けてERPにシステムをリプレースしたのは良いですが、結局は使い物にならず、また自社システムを再構築する企業が続出しました。


こと日本のIT業界において、流行った事を列挙すると・・・簡単に書いても、下記のような失敗事例を列挙する事が出来ます。


●ダウンサイジング :PC台数の急激な増加による費用増加で失敗
●クライアント・サーバー・システム :サーバー乱立でハードウェアの管理が出来ず失敗
ERP :カスタマイズ出来ずに失敗
クラウド :ネット経由処理が「AI」の処理スピードを満たせず失敗


日本における企業の情報システム部は、バブル以降、自分達で考える事を止め、全て「Sier」の言うなりに動く、「操り人形(Marionette)」と化してしまった事から、数多くの失敗を繰り返すようになってしまったみたいです。


次回以降で、本当にクラウドは、企業の救世主に成り得るのかを検証したいと思います。


それでは、次回も宜しくお願いします。

以上

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