東北に多い正教会(その1) 〜 キリスト教と何が違うの ?


今回の「盛岡・岩手情報」に関しては、「正教会」を取り上げたいと思います。

ところで皆さん、「正教会」ってご存知ですか ? 正式名称は、「宗教法人日本ハリストス正教会教団」となりますが・・・

東京に住んでいる方ならば、「JR御茶ノ水駅」近くにある、左の画像の建物を、一度は見たことがあると思いますが・・・これは通称「ニコライ堂」、正式名称は「東京復活大聖堂」と言う建築物です。

私も、学生当時は、「JR水道橋駅」に大学がありましたし、社会人になってからは、一時期、「JR御茶ノ水駅」近辺に会社事務所があったので、「ニコライ堂」も、ちょくちょく見てはいましたが、正式名称が「東京復活大聖堂」というのは、今回、初めて知りました。

この建築物は、日本に「正教会」の教えを伝えたロシア人修道司祭「聖ニコライ」、本名「ニコライ・カサートキン」が中心となって創建した明治を代表する建築物で、現在は、国の重要文化財に指定されているそうです。

「聖ニコライ」や、この「東京復活大聖堂」についても、後ほど、もう少し詳しく紹介したいと思いますが、この「正教会」と言う教派、もちろん、この「ニコライ堂」が、日本における首座になるのですが、何故か、東北地方に、数多くの教会があります。


弊社事業所のある盛岡にも、「盛岡ハリストス正教会」があります。右の画像が、盛岡の教会となります。

私は、教徒ではないので、教会を直接訪れた事は無いのですが、教会のある場所が、国道4号線の直ぐ脇の高台にあるので、国道を車で走ると、よく見えます。

また、私が通っていた高校の近く、そして「高松の池」と呼ばれている桜の名所の傍なので、たまに教会の近くを通った覚えもあります。

そして、岩手県内には、この盛岡を中心に、下記9箇所に教会があります。また、その他、秋田県の1箇所も、盛岡の管区となっているようです。(※:現在教会無し)


・遠野ハリストス正教会 ・大原ハリストス正教会(※)
・山田ハリストス正教会 ・奥玉ハリストス正教会(※)
・岩谷堂ハリストス正教会 ・曾慶ハリストス正教会(※)
・一関ハリストス正教会 ・日形ハリストス正教会(※)
・盛ハリストス正教会



また、宮城県には、下記10箇所もの正教会があります。

・仙台ハリストス正教会 ・上下堤ハリストス正教会
・中新田ハリストス正教会涌谷ハリストス正教会
石巻ハリストス正教会気仙沼ハリストス正教会
・高清水ハリストス正教会 ・金成ハリストス正教会
・佐沼ハリストス正教会 ・十文字ハリストス正教会

日本全体でみると、大きく下記3つの教区で、合計66箇所となっているようですが、これを見ても、東日本、つまり東北地方に、いかに多くの教会があるかが解るかと思います。(ちなみに、東日本には、北海道も含まれます。)

教区 中心地 教会数
東京大主教 東京復活大聖堂 20
東日本主教区 仙台ハリストス正教会 31
西日本主教区 京都ハリストス正教会 15


そこで、今回、「正教会」に関しては、次のような情報を紹介したいと思います。

正教会の名前
●他キリスト教との違い
正教会の教義とは
●ハリストスとは ?
正教会の「形」について
●日本における正教会
●ニコライ聖堂とは
正教会の内部分裂
●東日本における正教会
●日本におけるイコン

但し、私は「神学者」ではないので、これから紹介する事は、悪い言葉で言うと「通り一遍」の説明、表面的な説明になってしまう点は、ご理解下さい。

本ブログでは、何故、東北地方に「正教会」が多いのか、その理由と歴史を紹介する事に力点を置いていますので、宗教の歴史や教義を詳細に紹介するつもりは毛頭ありません。

しかし、『 何故、東北地方に正教会が多いのか ? 』という点を紹介するために、まず「正教会」自体が、どのような宗教なのかを紹介する説明があると思い、前半/後半の2回に分けて、「正教会」の事を紹介したいと思います。

今回は、前半部分としてて、下記のように「正教会」の事と歴史を「さらっと」紹介したいと思っています。

正教会の名前
●他キリスト教との違い
正教会の教義とは
●ハリストスとは ?
正教会の「形」について

もう一度、簡単な歴史の授業を受けると思って下さい。

それでは今回も宜しくお願いお願いします。

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■「正教会」という名前について


皆さんは、「正教会」と言うと何をイメージしますか ?

私などは、宗教は詳しくないので、「正教会」といえば、「ロシア正教」とか「ギリシャ正教」ぐらいしか思いつきません。

まあ、「キリスト教の一派なんだろうな〜」と言う感じです。

調べてみると、確かに、キリスト教の一派となっており、「カトリック」や「プロテスタント」等、「イエス・キリスト」が誕生した中近東の西側に拡がったキリスト教に対して、ギリシャ、東欧、ロシア等、東側に拡がったキリスト教の事を指しているとの事でした。

このため、「正教会」は、「ギリシャ正教」、あるいは「東方教会」とも呼ばれているらしいです。

これは、「正教会」の誕生に由来しているようです。

1世紀に起源を持つ「正教会」は、ギリシャ、そして東ローマ帝国を中心に伝統を継承して来たと言う経緯があるので、「ギリシャ正教」と言うと、次の2つの意味があるので、「ギリシャ正教」と言う言葉が使われた場合、その前後の文脈で、どちらの意味として使われたのかを判断する必要がある、との事です。

・全世界の正教会を表す通称
ギリシャ国内における正教会の運営組織となる「ギリシャ正教会

何とも、紛らわしい限りです。

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そして、前述の「ギリシャ正教」とか「ロシア正教」ですが、私は、それぞれ国別に、独自のキリスト教の宗派となる「正教会」があるのかと思っていたのですが、何の事はない、単に「正教会」の組織名を表しているだけでなのだそうです。

つまり、次のような意味となり、当然、「日本ハリストス正教会」と言う組織も存在します。

・「ギリシャ正教」 : ギリシャ国内で活動/運営している「正教会
・「ロシア正教」 : ロシア国内で活動/運営している「正教会
・「日本ハリストス正教会」 : 日本国内で活動/運営している「正教会

各地の「正教会」の組織を表すために、接頭語的に、「国名」や「地域名」を、先頭に付けているだけで、宗教/教義自体は「正教会」で統一されているそうです。

このため、「仏教から日本正教に改宗した」等の表現は大きな間違いで、正しくは「仏教から正教会に改宗した」、となるのだそうです。

また、「カトリック」では、バチカン教皇を頂点にした1個のピラミッド型の組織運営になっていますが、「正教会」の場合、上記の組織単位のピラミッド構造になっているそうです。

つまり、「ロシア正教会」のピラミッド、「日本ハリストス正教会」のピラミッドと言うように、組織毎のピラミッドが複数個存在し、それぞれが、同一の教義で「疎結合」すると言う組織運営のようです。

しかし、その昔、「東ローマ帝国」が存在した当時は、全ての組織の上、頂点には「東ローマ帝国皇帝」が君臨していたように見受けられます。

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また、日本における「正教会」の名称ですが、正式名称は、前述の通り「宗教法人日本ハリストス正教会教団」となっています。

便宜的に「日本正教会」と言う名称も使っているようですが、この名称は、いわば「通称」みたいな感じのようです。

元々は、明治3年(1870年)、当時の「ニコライ司祭」が、ロシア正教会から「日本宣教団(日本正教伝道会社)」設立を認可され、「ニコライ司祭」を掌院に昇叙させて宣教団団長として正式な活動を開始した事に始まります。

また、その後は、後編となる「その2」に記載しますが、教団が分裂し、裁判沙汰になる等、ゴタゴタした事が起こりますが、最終的には、昭和45年(1970年)に、「日本ハリストス正教会」と言う名称になった次第ですので、「日本正教会」と言う名称は、あくまでも「通称」のようです。

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■「正教会」と他教派の違いについて


それでは、次に、「正教会」と「カトリック」や「プロテスタント」とは、何が異なるのでしょうか ? 以下で、「正教会」側の考えを紹介します。

現在、東西を含め、様々な諸教派に分裂しているキリスト教ですが、元々、キリスト教は、1つだったそうです。

しかし、キリスト教誕生後、キリスト教の教義が確立されていく中で、様々な考え方や解釈が現れ、中には、正統ではない考え方が生まれ始め、それらは「異端」と呼ばれるようになったそうです。

このため、西暦325年から787年の間、世界中の全教会の代表者達による会議が、合計7回開催され、その会議において、キリスト教の教義、教会組織のあり方、および教会規則等が決定されたそうです。

ところが、時代を経るにつれ、「東方教会(正教会)」以外のキリスト教派は、この決定事項から離れてしまったのだそうです。

つまり、「東方教会(正教会)」の考え方としては、キリスト教の「教え」は1つしか存在しなかったが、「東方教会(正教会)」以外のキリスト教派は、元々の「教え」から離れて行ってしまったので、現在のように様々なキリスト教派が存在するようになってしまった、と言う事らしいです。

このため、「東方教会(正教会)」、これは日本語訳なのですが、これを英語で呼ぶ場合は、『 Orthodox Church(オーソドックス・チャーチ) 』となり、「正しい讃美」、あるいは「正しい教え」を意味するギリシャ語である「オルソドクシア」と言う言葉に由来しているとの事です。

まさに、「オーソドックス」の和訳となる「伝統」、そして「正統」の教会と言うことなのだと思います。

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しかし、歴史的に見ると、この東西キリスト教会の分裂は、1054年に起こった「大シスマ」と呼ばれる出来事で、東西のキリスト教が、お互いに他方を「破門」して、次の2つに分裂した事を意味しています。

西方教会ローマ教皇を頂点とするカトリック教会
東方教会コンスタンディヌーポリ総主教を頂点とする正教会

これは、395年のローマ帝国分裂、そして476年の西ローマ帝国の滅亡を経て、東西教会の交流が希薄になった結果、次のような点で、考え方の違いが明確になった事が原因とされているようです。

・礼拝方式の違い
・神の解釈の違い
・教会組織の運営方法の違い
・司祭の妻帯可否の違い

これらの点をもう少し具体的に示すと、「正教会」では、「正教会」のみが原始キリスト教を受け継ぐ教派としており、次の点が、カトリックとは異なるとしています。

●離婚OK
偶像崇拝禁止
●聖職者は男性ONLY
●司祭の妻帯OK
●国や地域毎に独立した組織がある
●(今は存在しないが)ローマ皇帝が最高位(※教皇ではない)
聖霊は「父」、すなわち「神」からのみ生まれる(「子」となるイエスではない)
聖母マリアの「無原罪」を認めない(※無原罪:生を受けた時から「一切の罪=原罪」が無い)
●地獄と天国の中間的な位置にあるとされる「煉獄」の存在を認めていない

その他にも、当然、「正教会」とカトリックでは、様々な教義の違いはありますが、大きな違いとしては、上記が挙げられるようです。

また、前述の通り、「正教会」の言い分では、「正教会のみが原始キリスト教を忠実に継承している。」としていますが、この言い分に関しては、カトリックも同じ事を主張しているようです。

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ちなみに、前述の「世界中の全教会の代表者達による7回の会議」は、「全地公会議」、あるいは「全地公会」と呼ばれ、この7回の会議における決定事項に関しては、「正教会」、および「カトリック」の双方とも、その有効性を認めているようです。

回数 名称 開催年 主旨
1 第一ニカイア公会議 325年 アリウス派排斥、ニケア心情採択、復活祭日付確定
2 第一コンスタンティノーポリス公会議 381年 至聖三者論定義、ニケア信経採択
3 エフェソス公会議 431年 ニケア信経正統性確認、神の母/生神女論争決着、等
4 カルケドン公会議 451年 単性論排斥 → 非カルケドン派分裂
5 第二コンスタンティノーポリス公会議 553年 三章問題討議、カルケドン公会議決定事項確認
6 第三コンスタンティノーポリス公会議 680年 単意論排斥、ホノリウス問題討議
7 第二ニカイア公会議 787年 イコン破壊論者排斥、大斎主日決定、イコン正統性確認


本ブログでは、各会議の詳細内容や論争の意味等も紹介しません。余りにも「コア」過ぎる内容なので、私などは着いていけません。

詳しく知りたい方は、Web、あるいは書籍等で調べて下さい。

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■「正教会」の教義について


それでは次に、元々のキリスト教の「教義」とは、どのような事なのでしょうか ?

前述の通り、私はキリスト教徒ではありません。私の家系は、仏教、それも禅宗の一つとなる曹洞宗です、と言っても、別に座禅とかに励んでいる訳でもありませんが・・・

とにかく、キリスト教の事は一切解りません。

現在は、閉園してしまったようですが、私が通っていた幼稚園が、ミッション(プロテスタント)系だったので、お昼の食事の時に「天にまします我らが父よ、(以下、略)、アーメン」と唱えていた事と、学芸会の時に、キリストの誕生の場面を演じた事くらいしか、キリスト教には、触れた事もありません。

強いて言えば、後は・・・小学校の時に通っていた習字の塾が、何故か教会だった事と、中学の時の同級生が、牧師の息子だった事くらいです。

とにかく、キリスト教の事は、カトリック教徒と、そこから宗教改革によって分離したプロテスタントがある事くらい、つまり歴史の教科書で習った事くらいしか知りませんでしたから、さらに、それ以前に、キリスト教が東西に分裂していたなんて・・・初めて知りました。

ところで、キリスト教に関しては、ビザンティン時代、つまり東ローマ帝国統治時代(395年〜)の初期となる8世紀には、既に原始キリスト教が確立されていたと言われています。

そして、「正教会」では、前述の通り「正教会」のみが、原始キリスト教を受け継ぐ教派としており、その教義は、『 神の啓示 』を信仰の基盤とし、連綿と受け継がれてきた神による啓示に基づく信仰と教えを、『 聖伝 』と呼び、『 聖伝 』を伝えていくにあたっては、『 聖神(聖霊) 』の導きがあるものとしている、との事です。

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う〜ん、どうやら、「正教会」においては、『 神の啓示 』、『 聖伝 』、そして『 聖神(聖霊) 』が、教義に関する重要なキーワードのようです。

これらを簡単に説明すると、どうやら次のようになるみたいです。ちなみに、これは「正教会」の考え方で、カトリック/プロテスタントでは異なるようです。

『 神の啓示 』 :聖書、つまり昔の預言者使徒達が記録した神の言葉
『 聖伝 』 :聖書、および預言者使徒達の記憶を含むキリスト教の諸々の伝承
聖神(聖霊) 』 :キリスト教における三位一体の神

という事で、前述の教義を、さらに簡単な言葉にすると、「正教会」の教義は

『 神の導きにより伝承されてきた、預言者使徒達の記憶を含む聖書を、信仰の基盤とする。』

と言うことになるのでしょうか ?

より具体的な教えとして、「盛岡ハリストス正教会」のホームページには、「正教会」の教えてを、次の記載していました。

(1)教会の伝統にのっとって聖書を解釈し、聖師父とよばれる教会の聖人たちの教えを第一とする。
(2)教会は人間のように成長し、国ごとに独立する。しかし、信仰の内容は同一である。
(3)人間が考え出した宗教観、人間観、世界観ではなく、ハリストスの復活の福音を伝えることが中心。
(4)厳しい戒律などはなく、信仰を深めるための生活の知恵をもっている。

これまでの紹介内容に、かなり合致していると思います。そして、具体的な行動としては、次のような儀式を行うと記載されています。


(1)楽器を使わないで聖歌を歌い祈る
(2)立って礼拝するのが基本
(3)ロウソクを灯し、香を焚く
(4)イコンとよばれる聖なる絵を掲げる
(5)聖職者は祭服を身に付けて祈る
(6)信徒は十字架を描き神の祝福を願う
(7)聖堂を建てて集まり
(8)「聖体礼儀」という大切な祈りを毎週日曜日に欠かさずに行う

これらの内、「聖体礼儀」と言うのは、「正教会」においては、最も重要な礼拝/祈りの事のようですが、このように「祈祷/祈り」のような単純表現では、ダメ出しされるケースもあるようです。

日本ハリストス正教会」のホームページには、「聖体礼儀」に関して、次のように記述されています。(※抜粋)


『 聖体礼儀は、正教会の中で最も中心的な奉神礼であり、最も重要な機密です。「機密」というのは「見える」この世の物と「見えない」神の恵みが一つになることです。

ですから、神そのものであるハリストスが私たちと同じ肉体をとられたこと(藉身:せきしん)が、機密の基礎となります。

その藉身されたハリストスと私たち一人一人が繋がりをもち、交わり、一つに合わさるための最も重要な機密としてハリストス自らが聖体機密をお与えになりました。 』


その他にも、より詳しい説明がありますので、詳しい内容を知りたい方は、そちらをご覧下さい。

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■「ハリストス」とは


それと、教会の名前に付いている「ハリストス」と言う言葉ですが、何を表しているのだと思いますか ?

「ハリストス」とは、フルネームでは、「ドンタコス」にちょっと似ていますが、「イイスス・ハリストス」と言う人物の名称となります。

この人物は、伝承によれば、紀元前1世紀頃に、現在のパレスチナユダヤ地方で宗教活動を行った人物となっています。

と、ここまで説明すれば、「イイスス・ハリストス」が、誰なのかは解ると思いますが・・・そう「イエス・キリスト」の事です。

正教会」では、「イエス・キリスト」の事を、中世ギリシャ語と教会スラブ(ロシア)語にもとづき「イイスス・ハリストス」と呼んでいるそうです。

何故、「イエス・キリスト」と呼ばずに「イイスス・ハリストス」と呼んでいるのかについてですが・・・よく解りませんでした。

推測ですが、「正教会」が、ギリシャ/東ローマ帝国から生まれた事から、ギリシャ語読みを採用したのだと思います。

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そもそも、「イエス」は人名、「キリスト」は、古代ギリシャ語「クリストス」の日本語表記です。

そして、「クリストス」とは、ヘブライ語の「メシア」の事で、「油を塗られた者」を意味しています。

この「油を塗られた者」の意味ですが、これは、「モーゼ」で有名な旧約聖書出エジプト記」に、「王が即位する際に身体に油を塗られた」と言う故事に因んでいるそうです。

その後、「油を塗られた者」の意味が、「理想的な統治を行う為政者」、さらには「精神的な救済者」を意味する言葉として使われるようになり、そして最終的には、「メシア」が「救世主/救済者」を表す言葉として使われる様になりました。

このため、「イエス・キリスト」とは、「イエス」を「メシア(救済者)」として認めた場合の呼称と言う事になります。

つまり、次のような感じで、原始キリスト教が生まれたのだと思われます。(※当然、諸説あります。)

●紀元前1世紀頃に、現在のパレスチナユダヤ地方で宗教活動を行った「イエス」と言う人物がいた
●「イエス」と言う名前は、当時は一般的な名前で、多くの人に「イエス」と言う名前が付けられていたので、人物を区別するために「ナザレに住んでいるイエス」、または「ナザレで生まれたイエス」と言う意味を込めて「ナザレのイエス」と呼ばれた
●「ナザレのイエス」は、様々な場所を巡って教えを説き、かつ皮膚病を治す等、数々の奇跡を起こした
●その後、「ナザレのイエス」の教えを信じる「弟子」の集団が形成された
●弟子集団から、筆頭弟子となる「ペテロ」を中心とした十二人の有力弟子「十二使徒」が形成された
●「ナザレのイエス」の死後、復活を通して「ナザレのイエス」の教えが地中海沿岸を中心に拡がることで、「ナザレのイエス」が「イエス・キリスト(救世主キリスト)」となった
●「ナザレのイエス」を、「救世主」として信じる宗教として「キリスト教」が誕生した

そして、「イエス・キリスト」と言う言葉を、ヘブライ語ギリシャ語で整理すると、下表のようになるのだと思います(※こちらも発音/読みに関しては諸説あります)

一般的表記 エス キリスト
ヘブライ語 イェーシュア メシア
古代ギリシャ イェースース クリストス
現代ギリシャ イイスス フリストス
古代ギリシャ語の日本語読み イイスス ハリストス
英語 ジーザス クライスト


私は、昔から、キリスト教の言葉に関して、ヘブライ語ギリシャ語の読み方の違いと日本語の関係がゴチャゴチャで、何と言う言葉が、同じ事を意味しているのかが解りませんでした。

上記の表で言えば、「メシア」は「神」を表すのだと思っていましたが、「救済者」の事だと、今回、ようやく理解出来ました。(※「メシア」を「神」とする場合もあるようです。)

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もうひとつ、「神」と言う言葉に関しても、日本語だと1種類「神」となりますが、海外の言葉では、「ゼウス」、「ゴッド」、「ヨシュア」、「ヤハウェ」、「主」、「エホバ」、その他諸々・・・もう、何が何だか解りません。

そこで、私なりに整理すると、上記の「神」関係は、次のようになるのではないかと考えました。

アドナイ=ヤハウェ=エホバ
デウス=ゴッド=上帝
ユダヤ人の指導者 モーゼ、ヨシュア(※モーゼの後継者)
ギリシャ神話の神 ゼウス(ラテン語デウス」)
ローマ神話の神 ジュピター

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それでは、「主」と「神」とは、何が違うの ? と言う問題も出てきますが・・・また、これも面倒な話になっています。

「主」と「神」の違いを調べると、分かり易い説明では、「主」は固有名詞、「神」は普通名詞と言う説明がありました。この説明の例としては下表のような感じらしいのですが・・・解りやすさを優先するために、失礼を承知で記載しています点、ご容赦願います。

通名 一般的な物。同じ種類に分類する物をまとめて名付けた名前 イヌ ネコ 天皇
固有名詞 唯一の物。同じ種類に分類された物を識別するための名前 ポチ タマ 明仁

しかし、「キリスト教」の多くは、ユダヤ教イスラム教と同様、「唯一神」を信仰する「一神教」の宗教なのですが、「父」と「子」と「聖霊(聖神)」の3つを「神」として信仰しています。

よく耳にしますよね、「父と子と聖霊の名において、(以下、略)アーメン」・・・この場合、「父=神」、「子=イエス」、そして「(難解な)聖霊」になります。

これでは、「キリスト教」の教義となる「一神教の原則」に反するのではないか、とも言われているようです。

そこで、「キリスト教」では、「父(本来の唯一神、創造神)=神=主」、「イエス」、そして「聖霊」が、一つの「神格」であると言う「三位一体(至聖三者)という「教義(ドグマ)」を決定することで、この問題を解決しています。

それでは、次に、難解な「聖霊(聖神)」について・・・もう、この話は止めましょう。

※「聖神」/「至聖三者」と言う言葉は、「正教会」の用語となります。



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■「正教会」の形について


何事にも「形」が重要なようで、この「正教会」においても、「形」に関する様々な決まり事があるようです。

沢山の決まり事があるので、その一部、次のような点を紹介したいと思います。

・聖堂
・イコン
・十字架

まずは「聖堂」ですが、上図が、「正教会」における代表的な建築物で、現在のトルコ:イスタンブール、その昔は、東ローマ帝国の首都、「コンスタンティノープル」と呼ばれた地にあった「アギア・ソフィア大聖堂」になります。


現在は、「アヤソフィア博物館」となってしまっていますが、これが「ビザンティン様式」とも「ビザンティン建築」とも呼ばれる、巨大なドーム状の屋根を持つ「聖堂」となります。

建物の歴史を語ると、それだけでも膨大な量になってしまうので割愛しますが、このドームが、「教会に冠」を被せている事を意味しているそうです。

他方、これが「ロシア正教」になると、右の画像の様に、「クーポル」と呼ばれる「タマネギ」状の屋根が付けられます。

この「タマネギ」は、祈りが神の元に届く事を表す「ロウソクの炎」を象徴しているとの事らしいです。

そして、「タマネギ」、ではなくて「炎」の数にも、次のような意味があるようです。
・1個 :イイスス・ハリストス
・5個 :イイスス・ハリストスと4つの福音書(マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネ)
・7個 :「洗礼機密」等、7個の機密
・13個 :イイスス・ハリストスと十二使徒

右上のロシア正教会の「ウスベンスキー大聖堂」の場合、クーポルが7個ですので、「7個の機密」を表しています。


それと、聖堂の内部構造も、基本形は、次の3つの部位に決められているようです。

・啓蒙所 :聖堂入り口付近で、まだ洗礼を受けていない人(啓蒙者)が立つべき場所。「この世」を意味する場所。
・聖所 :聖堂の真ん中付近で、信者が祈祷や機密を行う場所。「天国の先取り」を意味する場所。
・至聖所 :聖像の奥。イコノスタス(イコンの壁)で区切られた場所で、聖職者のみが入れる場所。「神の国/天国」を意味する場所。

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次は、「イコン」です。「正教会」と言えば、やはり「イコン」を思い浮かべると思います。

前述の「イコノスタス」等、「聖堂」内部の様々な場所に、「イイスス・ハリストス」や「生神女(しょうしんじょ)マリア」、聖人、あるいは使徒等の聖なる像が描かれて掲げられています。

「イコン」は、ギリシャ語の「形/像」を意味しており、狭義では「聖なる画」を意味し、広義では正教会が使用する全ての絵画が「イコン」となるそうです。


「イコン」には、2つの起源説があり、1つは聖使徒「ルカ」が、「生神女マリア」と「イイスス・ハリストス」を描いた、左の画像が始まりとされています。

この画像は、ロシア正教会で最も有名な「ウラジーミルの生神女」と呼ばれる「イコン」で、現在は、モスクワの「トレチャコフ美術館」内の聖堂に安置されています。

もう一つの説は、「手にて描かれざるイコン」とも呼ばれている「自印聖像」の事で、エデッサという町にいたアブガル王が重病になり、イイススの元に使者を送って癒しを求めた際、イイススが、自分の顔に一枚の布を押し当てて、それを使者に渡したという伝承で伝えられています。

この「イコン」は、イイススが、顔を洗って布に顔を押し当てると、イイススの顔が布に写った奇跡として伝えられ、コンスタンティノープルに保管されていたそうですが、1204年の「第四次十字軍」により失われてしまったようです。

一方、「イコン」に関しては、「出エジプト記」に記載されているモーゼの「十戒」の「第二戒」で「偶像崇拝」が禁じられた事から「教義」に反するのではないか、と言う問題が、当初から持ち上がっていました。

しかし、前述の787年に開催された「第七全地公会議」において、次の通り「イコン」の正統性が承認されたそうです。

・実在したイイスス・ハリストスを描く事は、見えない神を想像して描く事とは異なるので偶像ではない。
・イコンを崇拝するのではなく、イコンに描かれた人物を崇拝/敬愛するので、偶像崇拝にはあたらない
・イコンを通して正しい信仰を学び取ることができる

このため、正教会における「大斎」の第一主日は「正教勝利の日」と呼ばれ、「イコン擁護論者」の勝利の日となっているそうです。

日本においては、「聖ニコライ」からロシア留学を勧められ、帰国後に、日本人初の「イコン画家」となった「山下りん(イリナ山下)」が有名ですので、第二弾において、何点か作品を紹介したいと思っています。

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そして、最後は「十字架」ですが、正教会で用いられる「十字架」は、他のキリスト教が用いる「十字架」とは、少し異なった形状の「十字架」を用いるケースがあるようです。

右の画像が、別名「ロシアン・ルーレット」ならぬ「ロシアン・クロス」、日本語では「八端(はったん)十字架」と呼ばれる「十字架」です。

「八端十字架」の名称は、「8箇所」の先端部分が存在することに由来しており、英語の場合も同様に、「Eight-pointed Cross」と呼ばれているようです。

しかし、別にロシア正教会だけで使用している訳では無いので、「ロシアン・クロス」と呼ぶのは正確では無いと言う指摘もあるようです。


ちなみに、私達が、普通「十字架」と呼んでいる形は、「ギリシャ十字」と呼ばれる形式で、縦横の長さが等しい形状になっています。





また、似たような「十字架」では、「ラテン十字」という形状もありますが、縦長で、横木が、やや上方に取り付けられた形状をしています。




これら全ての「十字架」が、キリスト教全般で使用されますが、「八端十字架」には、次のような意味があるとの事です。

・一番上の短い横棒は、「罪状札」を表す。
・下の方にある斜めの棒は体を支えるための「足台」を表す。
・傾斜は共に十字架に掛かった盗賊の内の一人が悔い改めて天国を約束された事を表す。


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今回は、「正教会」に関する、次の内容を紹介しましたが如何でしたか ?

正教会の名前
●他キリスト教との違い
正教会の教義とは
●ハリストスとは ?
正教会の「形」について

私自身は、前述のように、「正教会」という物は、「ロシア正教」と言う宗教や、「ギリシャ正教」と言う宗教と言うように、それぞれ別々のキリスト教の宗派があるのだと思っていました。

全て「正教会」という単一のキリスト教だったというのは驚きです。

また、「ハリストス」の意味が「キリスト」だったと言うのも驚きです。でも・・・皆さんも、きっと同じだと思います。普通の「仏教徒さん」にとっては、「ハリストス」が「キリスト」だとは解らないと思います。

さらに、「神」関係の言葉に関しても、世間一般の方にとっては、何が何だか解らない方が大勢いると思います。

但し、今回の分類が、正しいのか否かは、正直、私には解りませんが、私の様に、何が何だか、全く解らない人の一助になればと思います。

今回は、これだけの説明となってしまいましたが、次回は、次のよう内容を紹介します。

●日本における正教会
●ニコライ聖堂とは
正教会の内部分裂
●東日本における正教会
●日本におけるイコン

特に、4番目の「東日本における正教会」と言うのが、本シリーズのメインとなります。

しかし、ブログにも掲載していますが、色々な信徒が、「草の根」的な地味な活動を行っているので、どうして東北地域に「正教会」の信徒が多いのかは解りませんでした。

但し、「正教会」発祥の地が「函館」だったため、そこから南下したので、西日本や東京より、東日本に信徒が多いのだと思います。

明治元年(1868年)、日本に「正教会」が伝わり、今年で約150年、その間、「ロシア革命」等、数々の出来事があったのですが、現在では、約10,000人の信徒を抱えるまでになったようです。

次回のブログでは、日本における「正教会」の活動と、日本人初の「イコン画家」となる「山下りん」の作品等も紹介したいと思います。

それでは次回も宜しくお願いします。

以上


【画像・情報提供先】
Wikipedia(http://ja.wikipedia.org/)
日本正教会(http://www.orthodoxjapan.jp/)
・盛岡ハリストス正教会(http://www17.plala.or.jp/moriokaorthodox/)
・縄文と古代文明を探求しよう(http://web.joumon.jp.net/blog/)
ロシア正教会駐日ポドヴォリエ(http://www.sam.hi-ho.ne.jp/podvorie/general/jp/history.htm)
・戸崎将宏の行政経営百夜百冊(http://blog.livedoor.jp/pm100satsu/)
・浦野家の歴史と系譜(http://www.geocities.jp/kirche_7/index.htm)

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