120年ぶりの民法改正 〜 一体何が変わるの ?


今回の「IT系お役立ちブログ」では、「120年振りの改正」と言われ、巷では大騒ぎされている「民法改正」についての情報を紹介しようと思っていますが・・・この噂、知っていましたか ?


この「民法改正」に関しては、最初に、平成27年1月26日〜9月27日まで開催された、第189回通常国会の期間中である3月31日に、「閣法 第189回国会 63 民法の一部を改正する法律案」として衆議院に提出されました。


しかし、第189回国会では、安保関連法案の審議が優先され、この法律案は、第190回通常国会(平成28年1月4日〜6月1日)での「継続審議」となったのですが、結局、第190回国会でも審議されず、第192回臨時国会(平成28年9月26日〜11月30日)に持ち越されています。


このブログは、11月初旬に執筆していますが、現在の国会は、TPP法案に関して、口が余りにも軽過ぎる農水大臣の度重なる失言で揉めており、「民法改正法案」は、審議する余裕などないような状況です。


おそらく、第192回国会でも「継続審議」となり、審議は来年に持ち越しになる公算が高いと思われます。


この「民法改正案」は、実に多岐に渡っているので、当然、本ブログで全てを紹介する事は出来ません。


また、本ブログは、「IT系の情報」を発信しているので、その他、ITに関係の無い情報は記載するつもりもありません。


そこで、本ブログで取り上げるのは、「民法」の中でも、システム開発の契約に関する部分について、次のような内容を紹介したいと思っています。


システム開発に関わる契約の種類
●法律の変更内容
●法律変更に伴う注意点


ちなみに、国会における法律案の制定方法について簡単に説明します。


今回の「民法改正案」は、上記の通り「閣法」となっており、この「閣法」とは、内閣が提出した法案で、「内閣提出法律案」の略称となっています。


そして、「閣法」とは別に、議員の発議によって行われる法案を「議員立法」と言います。


「国会」とは、立法府であるため、「三権分立」の原則の元、本当は、議員が法律を提出して決める場所なのですが・・・


その実態としては、提出法案の数自体は「議員立法」の方が多いのですが、実際に成立する法案に関しては、何故か「内閣」から提出される「閣法」の方が多いようです。(※参考:第183回国会では閣法63法案成立/議員立法10法案成立)


前述の通り、国会は立法府であり、本当なら、有権者から選ばれた代表としての議員が法案を提出し、議会において議論を重ねて悪い点を修正し、その上で法律を成立させる責任があります。


内閣が提出した「閣法」が数多く成立するのであれば、「国会議員」など無用の長物でしか有り得ません。内閣府だけあれば良いような感じがします。


まあ、それだと官僚支配型政治になってしまいますが・・・


しかし、特に、近頃よく国会に存在する「口が軽過ぎる議員」、または「口だけ大将の議員」等は、本当に不要です。


もう少し、責任を全うして欲しいものです。それでは、少し道を逸れてしまいましたが、今回も宜しくお願いします。

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■契約の種類


肝心の「民法改正」の紹介をする前に、システム開発やシステム保守に関わる契約の種類を説明します。


今回のブログでは、これら契約に関する事柄を理解しないと、民法改正で変更になる事柄を紹介しても、「だから・・・ ?」となってしまいます。


現在の契約に関する法律を理解し、その上で変更内容を理解することで、変更内容に備える事が出来る様になります。


「現在は、こうなっているが、ここが変更になるので、この点を注意しなければならない。」と言う訳です。


その点を踏まえて、システム開発/システム保守に関わる現在の契約を説明しますが、システム系の契約は、大きく次の3種類です。


・請負契約
・準委任契約
・派遣契約


そこで、これら3種類の契約について詳しい内容を紹介します。

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●請負契約


「請負契約」とは、簡単に言うと、受注側は、契約で決めた期間内に、発注側に対して、契約書に明記された成果物を納品し、かつ納品物に関しては瑕疵担保責任を負い、指揮命令権も受注側企業が持つ契約と言うことになります。


民法第642条 】
請負は、当事者の一方がある仕事を完成することを約し、相手方がその仕事の結果に対してその報酬を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。


故に、この契約の場合は、契約書には、次のような「5W2H」を記載することになります。


「誰が」、「何を」、「何時までに」、「何処で作業を行い」、「どうような形で」、「いくらで」、「どうやって」納品するのか ? そして、納品物に関しては、何時まで「瑕疵」を担保するのか ?


システム開発の場合の契約は、ほとんどの場合が、この「請負契約」となり、成果物/納品物は、プログラムやマニュアルと言う形になります。


「瑕疵担保」に関しては、民法570条においては、成果物の納品後、「隠れた瑕疵」を発見してから1年以内であれば、瑕疵担保責任を追求できるとされています。


しかし、通常の「瑕疵」に関しては、民法637条で、成果物の納品後、1年以内が、瑕疵担保期間と定義されていますので、「民法における瑕疵担保期間は成果物納品後1年間」と考えるのが一般的だと思います。

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一方、「民法」とは別に、ビジネスの世界には「商法」と言う法律があります。


ここで、「民法」と「商法」の意味と優位性について、ちょっと説明しますが、私は、法律家でも何でもないので、その点を踏まえた上で、ご覧になって下さい。


まず、商取引に関する行為は、法体系全体においては、「私法」と言う範疇に入るそうで、さらに「私法」には、「一般法」と「特別法」があるそうです。


「一般法」で基本的な事柄を定義し、さらに、「一般法」の中から、特殊事情を抽出し、特別に管理する法律を「特別法」としているそうです。


このため、「一般法」よりも「特別法」が優先され、「特別法」に定義されていない点に関してのみ「一般法」を適用する事になっているそうです。


このため、この決まりを「民法」と「商法」に当てはめると、「民法 = 一般法」、「商法 = 特別法」となるので、商取引に関しては、「民法」よりも、「商法」の決まりの方が優先される事になります。


そして、「商法」にも「瑕疵担保」に関する項目が定義されており、商法第526条においては、次のように定義されています。



【 商法第526条(買主による目的物の検査及び通知) 】
1.商人間の売買において、買主はその売買の目的物を受領したときは、遅滞なくその物を検査しなければならない。
2.前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物に瑕疵があること又はその数量に不足があることを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その瑕疵又は数量の不足を理由として契約の解除又は代金減額若しくは損害賠償の請求をすることができない。売買の目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合において、買主が六箇月以内にその瑕疵を発見したときも同様とする。
3.前項の規定は、売主がその瑕疵又は数量の不足につき悪意であった場合には、適用しない。


と言う事になりますので、「商法における瑕疵担保期間は成果物納品後6ヶ月間」となります。


しかし・・・それよりも重視されるのが「契約自由の原則」です。


「ここまで説明してきて何だよ !!」と思われるかもしれませんが、一番有効なのは、当事者同士で締結する契約書となります。


弊社のブログで何度も説明していますが、民法よりも商法よりも有効なのは「契約書」です。契約書に「瑕疵担保期間は納品後1日です。」と記載し、双方で捺印すれば、「瑕疵担保期間」は、たった「1日」となります。


まあ、このように「瑕疵担保期間1日」と言うような契約は、後日裁判にでもなれば、一般常識からかけ離れているとして、無効になってしまう可能性が高いですが、一般常識から逸れていなければ、契約書記載内容が有効になります。


契約書に捺印後、何か問題が起きた後で「瑕疵担保期間は商法では1年だ!!」と吠えても、それは(犬には失礼ですが)、「負け犬の遠吠え」となってしまいます。


それと「指揮命令権」ですが、この後に紹介する「準委任契約」と「派遣契約」との関係で重要な意味を持ちますので、そちらの紹介で説明します。

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●準委任契約

次にIT関連の契約として取り交わされる契約としては「準委任契約」と言う形態の契約があります。


「はあ〜、準委任契約じゃなくて、委任契約じゃないの ?」と思う方も多いと思いますので、「準委任契約」と「委任契約」の違いいついては、後で説明します。


また、この「準委任契約」は、IT業界では別名「SES(System Engineer Service)契約」とも呼ばれており、この名称の通り、システム・エンジニアのサービスを提供する契約となっています。


つまり、前述の「請負契約」とは異なり、労働力や技術力をサービスとして提供する契約になりますので、成果物を納品する必要はありません。


民法における「準委任契約/委任契約」は、次の2つの条文によって定義されています。


民法第643条 】
委任(委任契約)は、当事者の一方(委任者)が法律行為をすることを相手方に委託し、相手方(受任者)がこれを承諾することを内容とする契約。
民法第656条 】
準委任(じゅんいにん)とは、法律行為ではない事実行為の事務の委託することをいう。準委任にも、委任の規定が準用される。


IT系における「準委任契約」としては、次のような契約がよく見受けられますし、弊社でも、お客様のシステムを保守する際の契約は、この「準委任契約」となっています。


・保守業務 : 開発したシステムに対して、月額保守料や年間保守料を支払ってもらい調査/対応を行う。
・お客様先での開発業務 : セキュリティ、あるいは開発環境の問題で、お客様環境で開発作業を行わなければならないケースがあり、その場合の契約は「SES契約」となります。
コンサルティング業務 : 社内業務の調査を行い、業務のIT化に向けた調査/提案を行う。


この「準委任契約」の特徴としては、次の2点が挙げられます。


・支払基準は労働時間
「準委任契約」は、前述の通り「成果物」を納品する必要はありませんので、報酬も、成果物に対して支払うのではなく、何らかの時間単位で報酬が支払われる事になります。
→ 時間当たり、日額、月額、年額


善管注意義務
受注側は成果物を納品する必要はないが、専門家として、発注側が期待する一般的なレベルのスキルを保持し、お客様に提供する義務があります。このため、受注側企業には、「善良なる管理者の注意をもって委任された業務を処理する義務(善管注意義務)」が課せられます。この義務に違反すると「債務不履行」となってしまい、賠償金を請求される可能性があります。



さて、「準委任契約」と「委任契約」の違いですが、何だと思いますか ?


前述の「民法第656条」の説明でも触れていますが、「委任」と「準委任」の違いは、「法律行為」を行うか否かだけの違いです。「法律行為」というのは、文字通り「法律にかかる行為」となります。


法律に関する内容を委任する場合が「委任契約」、それ以外が「準委任契約」になります。


「委任契約」の典型的なパターンは、裁判の時に契約する弁護士です。裁判は、自分の主張が100パーセント通る保証はありませんが契約は行います。仕事の成果が100パーセントでないので「請負契約」を締結する事はできません。


「上手く行くか、どうか解らないけどプロの意見を求める。」という事になります。


同様に、「準委任契約」の典型的なパターンは、前述の通りコンサルタントを依頼する時です。コンサルタントは、意見は言いますが、何かを請け負うことはありません。


また、内容的には医者も同様です。病気が100パーセント治る保証はありませんが、医療行為を受けけるので、医者と患者の間には、「準委任契約」が結ばれているということができます。

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●派遣契約


そして最後が「派遣契約」です。


「派遣契約」とは、派遣元事業主が、自社で雇用する労働者を、派遣先企業に派遣し、派遣先企業の指揮命令を受けて、この派遣先の労働に従事させる契約となります。


「派遣契約」の特徴としては、次の4点があります。

・完成責任無し
瑕疵担保責任無し
・指揮命令権は派遣先側にある
・労働者派遣法により管理される


IT業界でも派遣は大盛況で、弊社事業所がある盛岡市など、IT系企業は結構沢山あるのですが、弊社の様に、案件を持ち帰り、自社で開発作業を行っている企業は、ほんの僅かしかおらず、ほとんどの企業が、派遣契約で、東京の企業に社員を派遣しています。


私も、前職で、派遣ばかり行う企業のマネージャー職を行っていましたが・・・その実態は悲惨そのものです。


その理由は数多くありますが、まずは「偽装請負」と「偽装委託」と言う問題があります。

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ここまで紹介してきた契約形態の内、「請負契約」で問題となるのが「偽装請負」で、「準委任契約」で問題になるのが、「偽装委託」と呼ばれる行為です。


どちらも、「請負契約」や「準委任契約」と言う契約形態を装ってはいますが、その実態は「派遣契約」である労働形態の事です。(※本ブログでは「偽装請負」で統一します。)


この「偽装請負」の仕組みは簡単です。

・「C社」が「請負契約」でシステム開発案件を、「B社」から受注し、作業場所を「B社」の指定場所と言う契約をします。
・しかし、「B社」は、実際には、「A社」からの仕事を請け負っていて、作業場所は「A社」の事業所となります。
・このため、「C社」は、「社員Z」を「A社」の事業所に派遣しますが、「A社」の事業所には「B社」社員は存在しません。
・その上、作業の指示に関しては、「A社」の担当から受ける。 ← これが「偽装請負」になります。


これが、IT業界で、いつも行われる「偽装請負」ですが、この「偽装請負」は、日常的に行われています。


過去に、労働基準監督署に相談したのですが、全く相手にされませんでしたので、厚労省も、IT業界の「偽装請負」に関しては黙認状態だと思います。


特に、業界大手の企業が、平気で「偽装請負」を行っていますので、今後も、この状況は変わらないと思います。


少し話は逸れますが、何故、正規の「派遣契約」を結ばないのかと言うと、会社として派遣社員を受け入れる場合、専門の管理者を育成し、該当部署に配属しなければならないからです。


さらに、社員を受け入れる会社側では、派遣社員を受け入れるためには、作業場所も整備しなければならず、かなりの準備や出費が必要になります。


また、同じ人間を、3年以上、同じ作業場所には配置出来ない、事前面接の禁止など、様々な制約があるので、「派遣契約」での社員の受け入れには、かなりの抵抗があるようです。


このため、IT業界では、「偽装請負」が蔓延し、上図の「B社」のような「中抜き企業」が横行する事になってしまいます。


私は、IT業界以外で働いた事が無いので、他の業界が、どうなっているのか解りませんが・・・まあ、どこの業界も、似たり寄ったりではないかと思います。

少し前では、社長が経団連の会長を努めていた当時のキャノン、あるいはニコントヨタでさえ「偽装請負」を行っていた事が明らかになっています。


特にヒドイのが「キャノン」で、前述の通り、「偽装請負」が発覚した当時は、経団連の会長も努めており、講演や会見では「偽装請負に関しては企業側の現状を見直す必要がある・・・」等の発言をしていたのですが・・・


偽装請負」が発覚したとたん、180度発言を変え「法律が厳しいので企業側の負担が大きい」等と言い出す始末です。


こんな事では、日本の先行きが危ぶまれてしまいます・・・・

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■変更点


さて、ここまで、現行の契約形態、および、その特徴を説明してきましたが、ここからが肝心の変更点の紹介となります。


今回の民法の変更で対象となるのは、大きくは、次の3つの点となります。

瑕疵担保責任の消失
・支払い義務の発生
・準委任契約の新規契約形態追加


それでは、上記3点を、順番に説明します。

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瑕疵担保責任の消去

従来の請負契約には「瑕疵担保責任」がある旨は、前章で説明した通りです。


しかし、改正が予定されている民法では、条文から「瑕疵担保責任」が削除され、その代わりに「契約不適合」と言う文言が使われるようになる、との事です。


そして、この「契約不適合」と言う文言ですが、要は、「契約条件に適合しない成果物」と言う意味ですので、IT業界では、「重大なバグを含む成果物」と言う意味になるかと思います。


今回の改正予定民法では、この「契約不適合」と言う言葉の導入に伴い、次の点が変更になるそうです。

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・代金減額請求権の追加


「代金減額請求権」とは、納品物に重大な不具合(バグ)があり、かつバグに対する修正が行われない場合、バグの規模の大きさに応じて、支払代金の減額を請求できる権利となります。


バグ修正を受注企業が行えず、発注企業が、他社に修正を依頼した場合も、当然、その費用を、受注企業への支払代金から減額することが出来ます。


しかし、この「代金減額請求権」、弊社の場合、今でも基本契約の内容に含める場合もありますので、それ程、目新しい変更点とは言えないと思います。


まあ、「これまで慣習として行われてきた事が正式な法律となった」程度の変更だと思います。


・賠償請求起点の変更

次に、「賠償請求起点」ですが、従来は、これも前述の通り、民法637条で、「成果物の納品後、1年以内が瑕疵担保期間」と定義されています。


しかし、この「成果物の納品後1年以内」と言う起点が、今回の改正案においては、「不具合が有る事実を知ったときから1年間」に変更されます。


但し、さすがに、いつまでもと言う訳ではなく上限が設定されており、「上限は納品から最大5年以内」となります。


つまり、発注企業側としては、成果物の納品から5年以内であれば、バグを発見してから1年間は、無償で修正、あるいは修正に伴う損害賠償請求が行える、と言う事になります。


発注企業側として、「やった!! 5年間はタダで治してもらえる」と思うのは、余りに短絡的です。


もしも、契約書に「瑕疵担保期間」、民法改正後は「契約不適合」への対応期間を「5年」と明記した場合、受注企業側は、当然、その5年分のリスクを受注金額に「上乗せ」すると思います。


受注企業も馬鹿ではありませんので、その辺りの対応は、しっかり取ると思います。


発注企業側としては、次の何れかの選択をしなければならないと思います。


選択1 :開発費用が増えても、5年間は、無償で対応してくれるなら仕方がない
選択2 :開発必要は抑制したいので、仕方がないので、無償対応期間を短く設定する

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●支払い義務の発生


これまで説明してきた通り、「請負契約」は、請け負った作業を完遂させる義務があり、この義務を果たす事で対価を受け取る事が出来る契約形態です。


しかし、世の中では、不測の事態はよく起こるもので、プロジェクトの中断も、それほど頻繁ではありませんが、たまに発生します。


そうなると、当然、請け負った作業を完遂する事は出来ませんので、受注業者は「泣き寝入り」になる可能性がありました。


実際、裁判で争われたケースもあったので、今回の民法改正に伴い、プロジェクトが中断された場合でも、発注企業側に何らかの利益/メリットがある場合には、発注企業側には、受注企業に対して、対価の支払い義務があることが明文化されました。


走り始めたプロジェクトが、途中で中断するケースは、普通はありませんが、強いて例を挙げるとすれば、受注側と発注側との間で何らかの、感情的、あるいは技術的な問題が発生し、開発中の作業を、別業者に移すケースがあります。


このような場合、受注側企業は、請け負った業務を完遂していないので、対価を受け取れませんでしたが、改正案が施工されれば、それなりの対価を受け取れる可能性が出て来るかもしれません。


しかし、プロジェクト中断の理由によっては、裁判に発展すると思いますので、対価の受取は、そう簡単ではないことが予想されます。


ちなみに、この点も、弊社の場合は、基本契約に盛り込んでいるので、特に目新しさは感じません。

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●準委任契約の新規契約形態追加

「準委任契約」は、前述の通り、労力/サービス(役務)の提供が目的となる契約で、成果物の納品義務はありません。


しかし、今回の民法改正案では、「準委任契約」に、下記のような「成果完成型」の契約形態が追加されてしまうようです。


【 第648条 】
委託事務の履行により得られる成果に対して報酬を支払うことを約した場合において、その成果が引き渡しを要するときは、報酬は、その成果の引き渡しと同時に、支払われなければならない。


「 準委任で、成果完成型 ?」と訳の解らない契約形態です。 簡単に言うと「瑕疵担保義務が無い請負契約」みたいな感じ・・・う〜ん、余計に意味不明になってしまいました。


準委任契約なので、発注側には、指揮命令権はないのですが、受注側には、何らかの成果物の提出は求められるようです。


まだ施行されていませんので、何とも言えない所ですが、恐らくは、報告書レベルの成果物は必要になってくるのだと思います。

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■注意点


これまで、現在の契約形態と、民法改正後の契約形態について紹介してきまいた。


それでは、民法改正後は、どのような事に気を付ければ良いのでしょうか ?


今回の民法改正の基本姿勢は、「現状に法を一致させる」と言うものです。


これまでの説明箇所でも、「弊社の場合、既に、この内容は、基本契約書に含んでおり〜」と言う説明があったと思いますが、実際の現場では、既に、今回の民法改正と同じような契約を締結しているケースが多く見受けられます。


このため、普段から契約内容に敏感な企業は、今回の民法改正でも、さほど影響は受けないと思います。


まあ、唯一、「成果完成型の準委任契約」に関しては、前例がないので、何とも言えませんが・・・


問題は、これまで契約行為に「無頓着」だった企業です。


特に、受注企業側にとって影響が大きいのは、「賠償請求起点の変更」だと思います。


これまでは、通常のケースでは、「納品後1年間何もなければ後は大丈夫!!」だったのですが、これが5年間に拡大されます。


契約金額に、この「5年分のリスク」を盛り込めれば、ある程度問題は回避できるかもしれませんが、現代において、5年後の事など、誰も予測なんか出来ません。


・5年後に周辺環境の変化の影響で不具合が発生しないと断言できません
・5年後に納品システムを作成した社員が会社に在籍しているか否かは解りません。
・そもそも、会社が、5年後に、存在しているか否かも解りません。


最後のフレーズは、ちょっと言い過ぎかもしれませんが、「5年間のリスク」を、どうやって回避するのかを真剣に検討した方が良いと思います。

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●「契約不適合」への対応


「契約不適合」への対応は、前述の通り、「5年分のリスク」への対応となります。


一番簡単なのは、発注書/発注請書、あるいは注文書/注文請書等の契約書に、「契約不適合」の対応期間を明記する事です。


私どもでは、これまで、システム規模により、1ヶ月間〜1年間までの瑕疵担保期間を契約書に明記してきましたので、民法が改正されても特に影響はありません。


さらに、大規模システムの場合には、納品後に保守契約を行い、そちらでバグ対応も行っていますので、この保守契約で納品後に発生するリスクも吸収しています。


ここで問題となるのは、発注側から「無償対応期間が5年間もあるなら保守契約は必要ないじゃん !!」と言われることだと思います。


確かに、民法改正後、保守契約が不要になる可能性はあると思います。


しかし、保守契約には、下記のようなインセンティブを付ける事で、保守契約解除を避ける事が出来ると思います。


・障害対応時間の明記 → 例:障害発生後、24時間以内に対応、あるいは報告する、等
・バグ以外の障害にも相談に応じる
・軽微な仕様変更にも対応 等


これらインセンティブを付けることで、通常の「無償対応」と差別化を図ることが可能になるかと思います。


他方、「代金減額請求権」に関しても、大規模なシステム開発の場合には、基本契約書に、受入基準と支払基準に、その旨を明記していますので、何ら問題ありません。


これまで、契約書に無頓着だった企業は、これを良い契機として、契約書の見直しを行った方が良いと思います。


また、社内で契約書を見直しても、契約行為には「相手」が存在します。こちらで勝手に契約書を変更しても、相手が納得してくれなければ話になりません。


今の内から、「根回し」をしておいた方が良いかもしれません。

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●「支払い義務」への対応


これも、上記と同様、これまでも対応してきている企業は、特に対応の必要は無いと思います。


例えば、弊社の場合、大規模システム開発の場合、フェーズ単位に納期と検収期間を定めているので、万が一、フェーズで問題が起きても、フェーズ期間の作業で契約を完結することができます。


長期間のシステム開発を、フェーズを区切らずにダラダラ行っている場合に、相手先と何らかの争いになると、次のような問題が発生します。


・現状、どこまで完成しているのか
・相手は、どこまで納品を承認するのか
・成果物は、きちんと揃っているのか


要は、プロジェクト管理が、きちんと行えない会社の場合、結局、何が、どこまで完成しており、何を納品できるのかが解らないので、プロジェクトが中断した場合、最終的に「泣き寝入り」になってしまうと思われます。


これは、「民法改正が、どうのこうの」と言う問題以前の話だと思いますので、これも、良い機会ですので、自社のプロジェクト管理の仕方を見直した方が良いかもしれません。

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●「成果完成型準委任契約」への対応


この条文が変更になると、少し厄介かもしれません。


と言うのは、これまで「労力の提供」だけをしてお金をもらっていた契約に、成果物の提出が求められるようになるからです。


つまり、これまで「履行割合型契約」だった発注者が、何らかの成果物の提出を求める事が出来る「成果完成形契約」に切り替えるように、強要してくる可能性が高いからです。


例えば、あるITベンダーに、試験要員を、準委任契約で派遣していた場合、これまでは、単に試験を行い、試験結果を提出するだけで対価を請求できたのですが、今後は、対価として、正式な試験結果報告書や試験資料の添付まで求められる可能性があります。


その上、成果物の完成責任も負いますので、報告書の中身が不十分な場合、受取を拒否される可能性もあり、そうなると対価の支払いも拒否される可能性があります。


「単純人出し」で対価も貰っている企業は、この法改正には注意した方が良いと思います。


発注企業から、準委任契約における契約形態を、「履行割合型契約」から「成果完成形契約」に切り替えるように、強要された場合、何を成果物とするのかを、きちんと詰めて契約書に明記しないと、後々裁判なった時に負ける可能性が高い、と言うか、負けると思います。


この点は、要注意事項だと思います。

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今回は、今後予定されている「民法改正」の内、IT関係の契約に影響を及ぼしそうな項目に関して紹介してきましたが、如何でしたか ?


●「瑕疵担保責任」から「契約不適合」への対応
●プロジェクト中断時の支払い義務
●「成果完成形準委任契約」の新設


今回の法改正を紹介するブログで、「私どもは既に対応済なので影響ありません。」と言う記述が何度かあったかと思います。


『 何だよ、上から目線で・・・』と、不快に思われた方も多かったと思います。済みませんでした。


しかし、これは、私どもが、たまたまラッキーだっただけの事だと思います。


私ども「エム・システム」は、平成19年(2007年)創業ですが、その時のファースト・ユーザーが、建設業、特に鉄塔、橋梁、体育館等の立体構造物の製造に掛けては、日本のパイオニアのような企業様で、東京スカイツリーの製作にも関わる企業の関係会社でした。


そして、お解りの方もいると思いますが、建設業とIT業とでは、作業の進め方が非常に酷似しています。


・設計フェーズ
・製造フェーズ
・試験フェーズ・・・


と言う様に作業が進んで行きます。このため、契約事項に関しても、自然と建設業の内容に近い内容となります。


もっとも、工数や金額、作業内容に関しては、建設業の方が、はるかに大規模ですが・・・


このため、お客様から提示された契約内容に合わせて契約をしたら、自然と、良い契約書が出来上がったと言う次第です。


別に、弊社に「先見の明」があるとか、法律の専門家が居るとか、そんな事はありません。本当に、ラッキーだっただけです。


まあ、そんな中でも、弊社独自の知識と云いますか、経験則で学んだ事も少しはあります。


何度も記載していますが、私が、ソフトウェアの障害担当だった事もあり、納品物に関して、お客様と揉める点は熟知していました。


このため、先の建設業のお客様から提示された契約内容に、IT系のエッセンスを組み込む事で、何とか使い物になる契約書を作ることが出来た次第です。



契約書を重視しない会社が結構存在している事は、知っていますが・・・何故、そんな事が出来るのか不思議で仕方ありません。


私は、納品物に関して、会社を守る事ができるのは、唯一「契約書」だけだと思っています。


それにも関わらず「口約束」だけで仕事を請けるなど、どんでもない行為だと思いますが・・・私が神経質なのでしょうか ?


まあ、最後は、社員を拝み倒して、「尻拭い」をしてもらえば良いのかもしれませんが、そんなもったいない事は行いたくありません。社員が働いた分は、しっかり対価を支払ってもらいたいと思っています。


皆さんも、これも何度も言いますが、今回の法改正が良い機会ですので、契約書の見直しに着手して下さい。


但し、現状では、まだ改正案が成立していないので、何時までに対応すれば良いのか解りませんし、ひょっとしたら内容も見直しになる可能性も「ゼロ」ではありません。


当初の予定では、法務省民事局参事官室の情報では、改正法が国会で成立してから2〜3年後をメドに施行する予定だったそうです。


国会が延長になり、万が一、今年中に成立した場合、2018年春〜2019年頃の施行と言う事になるかもしれません。


それでは、次回も宜しくお願いします。



【画像・情報提供先】
Wikipedia(http://ja.wikipedia.org/)
・RONの六法全書(http://www.ron.gr.jp/law/law/minpo_sa.htm)

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